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高校野球で進む変化

 多様性が大切にされる現代では、合理性のないしきたりは廃れる。髪型に関しても例外ではなく、丸刈りを強制しない学校は徐々に増えてきた。日本高野連が5年ごとに行っている「高校野球実態調査」の結果が6月19日に発表され、丸刈りが激減していることがデータとしてわかった(硬式野球部がある全国の加盟3818校を対象に実施、回答率99.2%)。

「部員の頭髪の取り決め」について、前々回2013年に79.4%、前回2018年に76.8%を占めていた丸刈りは、今回26.4%まで大幅に減った。と同時に「特に取り決めず、長髪も可」は前回14.2%から59.3%に増えたのだ。

 背景には多様性が大切にされる時代もあるだろうが、野球人口の減少に歯止めがかからないこともある。化粧品メーカー・マンダムの調査によると、「部活生の10人に1人は髪を理由に入部を諦めたり退部する経験をしたり聞いたことがある」との結果が出ている。少なからず競技人口減少の一因になっていたわけだ。実際に私も高校入学のタイミングで「野球は好きだけど……」と言いながら入部を諦める選手を見た。少子化でただでさえ部活動の人数が確保できない中、さらに競技そのもの以外の部分が障壁になり裾野が広がらないのでは意味がない。

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 これは野球部に限った話ではないが、今後、頭髪は競技に影響を及ぼさないのなら自由というのが主流になっていくことは間違いないだろう。

「好き嫌い」と「良し悪し」

 話はライオンズに戻るが、高橋光成のロン毛に関して、以前マキノンがこう語っていた。

「似合っていると思います。結構カッコいいなと。光成に限らず今井も長髪ですし、平良も(2人と同じく)良いボール投げるので、3人揃ってロン毛にするのもいいんじゃないかなと思って見ています」(5月11日放送「文化放送ライオンズナイター」より)

 まさか平良にまで「チームロン毛」入りを勧めるとは……。想像の上をいく回答だったのだが、野球発祥の国の選手にとっては、髪型なんて似合えば何でもいいのだ。髪型はプレーには関係なくアイデンティティであり、自己表現の一部に過ぎないのだ。

 本業の邪魔にならないのなら、髪型に関し他人がとやかく言うのはやはり違うだろう。苦言を呈した方にその意識はないだろうが、「好き嫌い」と「良し悪し」が同列に語られるべきではないと筆者は思う。「好き嫌い」と「良し悪し」の区別がされないと、価値観の押し付けにすぎなくなってしまうからだ。悪いのであれば何がどう悪いかを説明できなければいけない。「イメージ」では弱いのだ。

 ただ、好き嫌いや善悪とは別のお願いを強いて言うのなら、(学生とプロを同列に語るつもりもないが)プロの皆さんには野球を志す者の手本でいてほしいとは思う。あるプロ野球解説者が言った「社会人としての最低限は(プロ野球選手にも)ある」と言っていたのも、分かる。

 今回このようなことが話題になったのも、チームが下位に沈んでいるからだろう。強ければかっこよく見えるものも、負け続ければそうでなくなる。ファンの目も厳しくなる。

 髪型に象徴されるのは、長く生きてきた日本人にとっては覚悟だ。野球に向き合う覚悟を見せてくれ、そういうことではないだろうか。

 ロン毛に苦言を呈した株主の声が届いたか否かは定かではないが、その3日後、24日には高橋光成が楽天を相手に8回無失点、まさにエースの活躍でチームに1対0の勝利をもたらした。防御率も1.92となり、その時点でリーグトップ。文句のつけようはないだろう。ファームではその日、今井達也が8回1失点、131球の熱投で勝利を挙げた。早く一軍の舞台に戻ってきてもらいたいところだ。

 ライオンのたてがみは強さの表徴だという説がある。長く色の濃いオスの方が強く、たくましいそうだ。「食事がまずくなる」ならラジオで聴いてもらえれば……というのは冗談だが、ぜひ次にロン毛を見る際は強さのシンボルだと思っていただきたい。そして選手には、立派なたてがみにふさわしい活躍を見せてもらいたい。

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