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4番になっても、時間をかけて築いた土台は揺らがない

 あの夏から16年、上本はカープの4番に座った。「チャンスメークができる。つなぐこともできる。決めることもできる」と新井監督の信頼感は絶大だった。32歳、下積みの時期もあれば、代走や守備固めでキャリアを切り拓いた時期もあった。それが、今や「ユーティリティーではない。オンリーワンのプレーヤー」(新井監督)との賛辞である。

 4番になっても、時間をかけて築いた土台は揺らがない。もちろん、チーム事情も含んでの要素は本人が誰よりも知っている。それにしても、揺らがない。出塁する打席、粘る打席、決める打席、その色合いの濃淡は見事である。

上本崇司 ©時事通信社

 時期を同じくして、中村奨成が左足の故障から復帰した。7月25日のスワローズ戦では1番・ライトで今シーズン初スタメン、5回には、ショートゴロでアウトになったものの、1塁にヘッドスライディングを見せていた。

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「思わず、頭から行っちゃいました。あんまりやったことがないですから、胸のあたりがまだ痛いですよ」

 照れ臭そうに話しながらも、中村の表情からは充実感すらも感じられた。一軍定着が保証されているわけでもないが、ネガティブな焦りはない。

「今は、やろうとしているスイングがあります。体を張って、上からバットを落として、体の回転です。それを続けていくしかありません」

 ドラフト1位から6年目、一軍定着は果たせていない。それでも、「ポテンシャルを認めて、励ましてくれ、それを生かせるように練習をずっと見てくれた」という存在がいる。広陵OBでもある新井良太コーチだ。

 自分たちのグラウンドを大事にする。ベンチもスタンドも一体になって、相手チームに向かっていく。これが広陵の伝統だ。

 そして、プロ野球での戦いである。なんとか出塁しようとヘッドスライディングを見せる。状況に応じて、チャンスメーカーにもつなぎ役にも変身する。広陵育ちの全力プレーを目にしていると、当時の球児が好んで用いた言葉を思い出す。

「一人一役、全員主役」

 未来を考えすぎない。過去ばかりを振り返らない。

「今、ここ、自分」

 清々しい夏の野球から学ぶべきことは、決して少なくはない。

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