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舞台裏を知っている佐藤都志也だからこその興奮

 誰よりもミラクルアーチを近くで見ていたのはネクストバッターズサークルにいた佐藤都志也捕手だろう。「初球のファウルを見て、タイミングが合っているなあ。打ちそうだなあと感じた」と振り返る。そして「打った瞬間に行ったと思った」と興奮の瞬間を思い返した。

「サヨナラホームランをネクストから見たのは初めて。自分が打つのがもちろん一番ですけど、自分の事のように興奮したのを覚えている。代打で打つわけですからね。本当に凄い事だと思う。鳥肌が立った」と話す。

 今シーズン、同じく代打で待機することも多い佐藤都は刺激を受けた光景があった。ベンチ裏にあるスイングルーム。そこでいつも早い段階から準備を重ねている角中の姿を目にしてきた。「準備が凄い。毎日、早くから同じリズムで凄い集中力で過ごしている。ああいうのを見ていると打つべくして打ったと思える。一緒に過ごさせていただいてものすごく勉強になる」と佐藤都。ストレッチを行い、廊下でショートダッシュを繰り返し、スイングをする。その振りは真剣そのもの。誰も立ち入ることが出来ない剣幕だ。こうして長い時間をかけて出番を待つ。時には出番はないこともある。あの日は9回二死で姿を現し1球目をファウル。2球目を仕留めた。舞台裏を知っている佐藤都だからこその興奮がそこにはあった。

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背番号「3」を蘇らせた野球ノートの存在

「いいボディーターンが出来ました!」。今年、結果が出ると角中はそのようにコメントをすることが多い(ちなみに「ありがとう!」も口癖のように多い)。今年は若き日に当時打撃コーチを務めていた金森栄治氏から教わったボディーターン打法を思い返し、原点回帰したことが功を奏している。大事にしている野球ノートに書いてあったことだ。

「プロ2年目ぐらいから思いついたらノートに色々と箇条書きをしてきた。同じような状況になった時にパッと思い返せるように。野球って結局は良くなって、悪くなっての繰り返しだから。人によっては配球とかもメモしている人がいるけど、自分はそうではなくてチェックポイント中心。自分の中の引き出しを増やそうと始めたこと」と角中。

 プロ17年目、若い時から書き溜めた野球ノートの存在が背番号「3」を蘇らせた。考え抜いて導き出した答えは一軍定着を目指し必死に過ごした日に、飛躍のキッカケとなった身体をクルっと回転しながらスイングをする文字通りボディーターン打法。メモに書かれていた秘打をもう一度、引きずり出した。あの日の一発も強烈で力強いボディーターンだった。

 ちなみに角中のノートには最近になると趣味のゴルフのメモが増えていると笑う。

「ドライバーを打つ時の心構えとか。どうやって構えて、どういう姿勢で打つかとか。最近だとこっちのメモの方が余裕で多いっス(笑)」。野球も趣味も日ごろの準備を決して怠らない。日々の地道な取り組みがここ一番の時に生きる。決して派手ではない。努力の男らしいエピソードである。

 夢見るはリーグ優勝。その想いが結実した時、多くの人にとって7月24日のナイトゲームは大きなターニングポイントとして思い返されることになるだろう。

「優勝旅行に行きたいですよね。ちなみに、もうすでに12月の2週目はゴルフのコンペの予定があるので、日程的にそこは勘弁して欲しいです」とニヤリ。誰もが思いつかない、時には広報も戸惑う絶妙なジョークもまたこの男の魅力である。

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