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指揮官の背中の傷の数こそが、若き才能たちが思う存分背伸びできる環境を育てる

 さて少し話はそれるのだが、僕は長い間、少年漫画雑誌の世界にいた。特に編集長をやっていた期間が長く実質13年余りにもなる。

 少年誌の編集長というのは雑誌の誌面をどの作家に任せるかを考える仕事だ。実績のある中堅ベテランもいれば、他誌から作家を引き抜いてくるという戦略だってある。その中で一番リスクが高く危険なのが「生え抜きの新人作家の育成抜擢」だ。何者でもない10代の若者の育成には莫大な費用・手間・時間がかかるし新人の新連載は90%以上うまくいかない。

 だが、新連載が当たった場合に一番威力が強いのもまた新人作家なのだ。

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 伝統的に何十年も新人育成の文化が浸透している雑誌はまだしも、一度低迷した雑誌でゼロから新人育成を再開するのは地獄の苦しみである。トライ&エラーなどという生やさしいものではなく、毎日がトライ&エラー&エラー&エラーの繰り返しだ。

 それでも指揮官は絶対にブレてはいけないのだ。いつか花開くと信じた才能たちのことを365日24時間考え続け、対話を繰り返し、彼ら若者たちの失敗により発生する損失や敗北の責任を一言の文句も言わずに自分の背中で黙って背負うしかない。

 指揮官の背中の傷の数こそが、若き才能たちが思う存分背伸びできる環境を育てるのだ。少なくとも僕はそう信じて13年間やってきた。

 なので、僕はベンチの中の中嶋監督の表情、身振り手振りを観察するのが好きだ。特に好きなのはチームが劣勢に立たされている時の中嶋監督の表情だ。自分が七転八倒した13年間をしみじみと懐かしく思い出させてくれるからだ。

 だからこそ紅林弘太郎には妙な思い入れがある。彼がとんでもない強打者に成長してこそ中嶋監督がのたうち回って苦しんだ改革の時代が報われるというものだ。そしてその時こそ、オリックス・バファローズは高卒野手をも育成できる真の強豪球団へと成長できるだろう。

 まずは今シーズンのペナントレースの最後、覚醒した紅林弘太郎の豪打がオリックスを3度目の頂へ導いてくれることを信じたい。

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