今季のハムの戦いを象徴しているように思えたプレー

 9月28日エスコンフィールド北海道、対ロッテ25回戦、今季ホームでの最終戦だ。1回表ロッテの攻撃。二死二塁で投手は根本悠楓 、打席にはグレゴリー・ポランコ。二塁走者はこの日出場選手登録されたばかりの荻野貴司だ。二塁手細川凌平は一二塁間の当たりに備え極端に後ろで守っている。遊撃手奈良間大己はセカンドキャンバスのすぐ後ろにいる。「ポランコ・シフト」だ。

 最下位はすでに決定しているとはいえ、ホーム最終戦はどうしても白星で飾りたい。先制点を与えるわけにはいかない。まして目下万波中正(や浅村栄斗や近藤健介)と熾烈な本塁打王争いをしているポランコにホームランを打たれることだけはあってはならない。初回から緊張する場面だ。

 カウント2-1からの4球目、外寄りのスライダーをひっかけさせた。おあつらえむきのセカンドへのゴロだ。シフトがなければセンターに抜けていたかもしれない当たりだが、右に寄って細川が難なく捕球し一塁手の加藤豪将に送球。これで3アウトチェンジ、と思ったら、塁審の両手が左右に広がった。ええーっ? 一呼吸あって、慌てたように加藤が本塁に向かって送球する。ボールをキャッチした捕手の田宮裕涼が回転してタッチに行くものの、荻野はヘッドスライディングで悠々ホームに滑り込んだあとだった。まさかのロッテ先制である。加藤のキツネにつままれたような表情が印象的だった。

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 古いファンなら、2006年対ソフトバンクのプレーオフ、稲葉篤紀の内野安打で二塁走者森本稀哲が一気に生還してサヨナラ勝ち、優勝を決めた劇的な瞬間を思いだした人も多いだろう。センターへ抜けようかという当たりを二塁手仲澤忠厚が好捕したものの遊撃手川崎宗則へのトスがわずかにそれ一塁走者小笠原道大がセーフになった。その間の森本の激走だった。

 二遊間のセカンドの深い守備位置までゴロが転がり、細川が捕球するまで時間がかかった。その間の、ポランコの死に物狂いの全力疾走。守備位置から見てセーフになる可能性が高いと思ったのだろう。そして何より、内野へのゴロで二塁から一気に生還した荻野の好走塁である。迷わず回した大塚明三塁コーチとのコラボが光る。ポランコといい、前日の和田康士朗といい、ロッテの走塁意識の高さがうかがえる好プレーだった。

 しかしたかだか内野ゴロ(内野安打)で二塁走者の生還を許したハムにとってはにわかに納得できない失点である。わざわざ極端な守備シフトを敷き、投手は首尾良くそこに打たせ、シフトにはめた形になったのにタイムリー内野安打にしてしまうとは。このあとハム打線の猛打が爆発して逆転勝ちしたので、この原稿が掲載される頃にはほとんど忘れられているかもしれないが、このちぐはぐなプレーは、なんだか今季のハムの戦いを象徴しているように思えた。

 もし細川が前進して打球をキャッチしていたら、内野安打にはならなかったかもしれない。しかしわずかにセンター寄りのゴロで右に移動しての捕球だったから、前で捕るのは難しかったのかも。だが捕球した時点で、間に合わないかもしれないという判断はできたはずだ。そこで二塁走者荻野が三塁を回りホームに向かおうとしているのが視野に入れば、「ボールを持ったままどこにも投げない」という選択肢もあっただろう。そうすれば大塚コーチは荻野を止めただろうし、少なくともあの場面での失点は防げた可能性がある。

 若い細川に瞬時にそこまでの判断を求めるのは酷かもしれない。ここはロッテの好走塁を褒めるべきだろう。しかしハムファンなら、そのプレーを難なくこなせる(かもしれない)選手の顔が浮かんだはずだ。前日に引退試合を行ったばかりの谷内亮太である。もし谷内が守っていれば……ついタラレバしてしまうのは野球ファンの悪いクセだ。

谷内亮太 ©時事通信社