今永昇太の取材があると心が弾む。今日は果たしてどんな言葉が聞けるんだろう……。

 2016年に横浜DeNAベイスターズに入団以来、今永の取材をしてきているが、常に予想のはるか斜め上を行く語彙力と、その感性に驚かされてきた。今永は、プロ野球選手になってほどなくすると、ご存じのように“投げる哲学者”と呼ばれるようになった。

 そこで、これまで8年間取材をしてきたノートから『今永昇太語録』を紹介したいと思う。名言が数多ある今永であるが、あくまで筆者が直接耳にした印象的な言葉だけに限定し、独断と偏見であることをご理解いただければと……では、スタート!

ADVERTISEMENT

今永昇太 ©時事通信社

大物ルーキーの片鱗を見せたコメント

「ドラフトの時はやりすぎてしまって、メディアの怖さを感じたというか、ふざけている奴ってイメージがついてしまった。でも僕はこれを逆に生かそうと思ったんです。ふざけてたけど、野球はしっかりやるんだなって」(2016年)

 ドラフト会見のとき、今永は報道陣のリクエストで、新たに就任したラミレス監督の現役時代のパフォーマンスだった「ゲッツ!」を30発以上もかまし、各メディアを賑わせた。ある意味で大物ルーキーの片鱗を見せたわけだが、内外の反響も大きく、これ以降、今永の言動は少しだけ慎重になっていくのだった。

「三浦(大輔)さんのやっていることをどれだけ盗めるか。アドバイスをもらう前に、まずは背中を追いながら勉強しています。僕は三浦さんの年齢、それ以上まで野球を続けたいと思っているので、何ができるのか今から考えていきたい」(2016年)

 三浦監督の現役生活最後の一年をともに過ごしたルーキーの今永。安易に大先輩にアドバイスを求めるのではなく、自分で見て、考え、学ぶ。若き今永の志しと洞察力を感じられる一言だ。結果的に今永は、三浦監督のあとを継ぐようにエースへと成長していった。

「好投したときこそ悪いところを見つけて、悪いときこそあえていいところを見つける。この世界で生きていくためにも、そういう反省をすることで、常に満足しないようにしています。けっこう僕は完璧主義者なんです。変に理想が高く、欲が出てしまうこともあるのですが、多分僕は、完全試合をしないかぎり満足はしないでしょうし、納得するコメントも出せないと思います」(2016年)

 えっ、これが22歳のルーキーか、と驚いたコメント。同時になんてカッコいい言葉なのかと。これに加え「プロの世界っていうのは勘違いしたら終わりだと思うんです」とも語っており、当時は末恐ろしい若手投手だなと思うしかなかった。

見えている世界の凄まじさに戦慄

「苦しみを乗り越えなければいけない。誰もがそれを乗り越えチームの中心になっています。筒香(嘉智)さん、宮﨑(敏郎)さん、山﨑(康晃)さんもそういった苦労があって今の立場がある。背中で示してくれる先輩たちがいるので、僕もそういう選手になりたい。崩れてしまうことは簡単ですし、1年で評価の変わる世界。今年はルーキー以上にアピールをして、先発6番手を争わなければいけない」(2019年)

 2019年のシーズン前のコメント。デビュー以来順調に勝ち星を重ねてきたが、この前年、3年目だった今永は左肩の違和感などもあり4勝11敗、防御率6.80と苦しんでいた。この自分を冷静に見つつ、謙虚ながらも内なるマグマを匂わせる言葉には、今永らしさを感じてならなかった。

「新たに掴んだ感覚があったんですよ。(伊藤)光さんのミットに自分が入っていくっていうんですかね、ビルの狭い隙間にラインが見えて自分がスッと入っていくような感覚。だから投げミスがあまりなかったし、投げミスがあったとしても強いボールが行っていました。セットでもクイックでもランナーがいても、ずっとその感覚があったのは不思議でした」(2019年)

 この年の5月に自身初となるリーグ月間MVPを獲得した今永。好調の要因を訊くと「ミットに自分が入っていく」と、わかるようで、まったく凡人にはわからないSFチックな説明をしてくれた。見えている世界の凄まじさに戦慄し「なるほど……」と、言うしかなかった。

「防御率と三振は自分で何とかコントロールできますが、白星ばかりは兼ね合い。だからこそ勝ちに導く投球をしたいんです。今はクオリティースタート(6回3失点以下)という言葉がありますが、そうではなく僕の投球で勝ちを持ってくる。初回に失点をしても僕ひとりで粘り強く投げていれば、みんなが逆転をするチャンスは出てくるので、そこを目指していきたい」(2020年)

 この発言に対し「数字を超えた人間力、チーム力の勝負ということですね」と、今永に問うと、こくりと頷いた。たとえ失点をしても、自分が投げることで打線にリズムを生み、チーム全体で勝利を目指す。だからこそ今永は打者としても気を吐き、今季は打率.263という投手として驚異的な数字を残している。

「自分がいいと思っているボールであっても、相手は決して打てないとは思ってはいない。逆に言えば、自分が首をかしげているボールが、バッターからすれば嫌なのかもしれない。そこで変化球をそこまで四隅に投げようと思わなくなったんです。逆に大胆に行くことで腕が振れるようになって、ボールがいいところに決まり出しました」(2021年)

 自信のあるボールをコースに投げ込みたいのはピッチャーの性であるが、決してそれがベターではないと語った今永。自分としては釈然としないボールであっても、相手からすれば嫌な場合もある。先ほど述べていた失点をしても勝ちに結び付ける投球しかり、投手として達観の域に入ってきた感のある、この頃の今永であった。

 なにを訊いても真摯に答えてくれるサウスポーであるが、その話題は野球ばかりではない……。