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奥川恭伸(東京ヤクルトスワローズ 投手)「まずは、ストライクゾーンでどんどん勝負すること。それを短期決戦でも貫くことができました」|鷲田康

野球の言葉学 第598回

鷲田 康
エンタメ 社会 スポーツ

 日本シリーズは4勝2敗でヤクルトがオリックスを下し、20年ぶり6度目の日本一に輝いた。6試合中5試合が1点差。勝負が決まった第6戦も延長12回の大熱戦の末、ヤクルトが切り札・川端慎吾内野手の決勝打で勝負を決めた。

 下馬評のオリックス有利を覆したヤクルトの勝利。ポイントは、実はサヨナラ負けした第1戦のヤクルト先発・奥川恭伸投手(20)の投球だったと思う。

史上最年少でクライマックスシリーズのMVPを獲得

 この試合で奥川はオリックスのエース・山本由伸投手(23)と投げ合い、互角以上の内容で、山本を先にマウンドから降ろしている。

「球界では球数100球未満で完封することを指す“マダックス”という俗語があります。アトランタ・ブレーブスなどで355勝を挙げて殿堂入りしたグレッグ・マダックス投手が、現役時代に13度も達成。それにちなんだ俗語ですが、奥川はクライマックスシリーズの巨人戦を98球で完封。“マダックス”を達成しています」(スポーツ紙デスク)

 シリーズ第1戦の投げ合いでも、ヤクルト打線の粘りで球数を増やしていった山本に対して、奥川は小気味よくオリックス打線を料理。5回終了時点で山本が95球も投げさせられていたのに対して、奥川の投球数は71球と、20球以上も少なかったのである。

 山本といえば最多勝や防御率だけでなく、パ・リーグの投手部門のタイトルを総なめして沢村賞を受賞、今夏の東京五輪でも金メダル獲得の立役者の1人となった日本を代表する大エースだ。その山本の存在が、下馬評のオリックス有利の根拠でもあった。確かに初戦でも結果的には6回1失点と文句のない投球だったが、その山本を奥川が内容でも上回っていたのである。

 奥川も7回にソロ本塁打を浴びて同点で降板。試合はヤクルトが8回に2点を勝ち越しながら、9回に守護神のスコット・マクガフ投手が打ち込まれて逆転サヨナラ負けという展開だった。しかし「山本で2勝」を計算していたオリックスにとっては「山本で勝った」のではなく「山本で負けなかった」という試合だった。

 オリックスの当初の青写真が崩れ、奥川が山本に投げ勝ったという事実が、ヤクルトのその後のシリーズの展開を考える上での一つのカギとなった。目立たなかったが、それくらいにこの奥川の初戦の投球には、大きな意味があったということだ。

“奥川世代”が中心に

 プロ入り2年目。この学年は当たり年でシリーズ第2戦に先発したオリックス・宮城大弥投手とは同学年。第7戦にもつれ込めば、二人の同級生先発対決が実現した可能性もあった。

今季13勝でリーグ優勝に貢献した宮城

 この世代には他にもロッテの佐々木朗希投手やシリーズで全試合に先発したオリックスの紅林弘太郎内野手、中日の石川昂弥内野手ら、投手ばかりか野手にも逸材が揃っている。いずれはこの“奥川世代”が、球界の中心を担っていくことになるのは確実だろう。

「まずは、ストライクゾーンでどんどん勝負すること。それを短期決戦でも貫くことができました」

 サンケイスポーツに寄せた手記での奥川の言葉学だ。

 ストライクで勝負できるというのは理想だが、制球力とボールの力を併せ持たないとなかなかやり遂げられない一番難しいところでもある。それを日本シリーズの大舞台、しかもその開幕戦でやってのけた。剛腕ではない。だからこそ“和製マダックス”の称号が相応しい。末恐ろしい投手の出現である。

source : 週刊文春 2021年12月09日

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