(とみはらまゆみ 哲学研究者、翻訳家。1954(昭和29)年兵庫県生まれ。パリ・ソルボンヌ大学大学院修了、哲学博士。著書に『シモーヌ・ヴェイユ』『ミンネのかけら』(ともに岩波書店)などがある。最新訳書は、英文学者の安達まみと共訳した『英語対訳 ムーミン・コミックス』(筑摩書房)。)
生家はちょっと変わった造りでしたね。50坪くらいの敷地に、小さな家が3つ建っていたんです。一つは父が開業していた木造の歯科医院の診療所、あと二つは鉄筋コンクリートの2階建てで屋上がありました。借金ぎらいの父はお金が貯まるたびに建て増ししていったので、統一感のなさといったら(笑)。一瞬ですが外に出ないと行き来できないので、雨の日は大変でした。裏庭は家の敷地より広くて、凝り性の父がバラやシャクナゲを育てていました。
フランス哲学とシモーヌ・ヴェイユ研究のほかに、冨原眞弓さんにはもう一つの仕事がある。ムーミンの作者トーヴェ・ヤンソンの小説の翻訳だ。1954年、兵庫県西脇市に生まれ、両親と兄の4人家族だった。
2階の客間は、家の前を流れる川で開かれる花火大会の特等席でした。夏になると見物のお客さんで一杯に。でも、私は花火がすごく怖かった。火が家に落ちてきて燃えてしまうんじゃないかと。家中を逃げまどったあげく、階段の中段あたりに隠れていたことをおぼえています。
小学校から高校まで、地元の公立に通いました。勉強は苦手で、本ばかり読んでいる子供でした。児童文学には縁がなく、読むのは偉人伝や科学の本が多かった。あとは父の書棚にあった古い岩波文庫とか。文学青年だった父は、私が物書きの仕事をするようになると喜んでくれました。
1972年、上智大学外国語学部英語学科に入学するため上京した。
大学の女子学生寮の面接に落ちて、当時港区にあった防衛庁の隣の一軒家に間借りをしました。治安がいいという両親の奨めで。寮に空きが出て、9月には晴れて寮生となりました。
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source : 週刊文春 2021年12月23日号