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【特別対談】よしながふみ×宇垣美里「マンガは生活必需品です!」

宇垣総裁のマンガ党宣言!

「週刊文春」編集部
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 新刊『今日もマンガを読んでいる』を上梓した宇垣さんが、敬愛する漫画家、よしながふみさんと初対面。完結を迎えた『大奥』をはじめ、漫画についてたっぷり語りました!

 

(よしながふみ 1971年、東京都生まれ。『大奥』で第10回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞、第13回手塚治虫文化賞マンガ大賞などを受賞。他の作品に『愛すべき娘たち』『きのう何食べた?』など。)

 

(うがきみさと 1991年、兵庫県生まれ。フリーアナウンサーとしてテレビ、ラジオ、CM出演のほか、女優業や執筆活動も行う。小誌連載をまとめたマンガコラム+エッセイ集『今日もマンガを読んでいる』が好評発売中。)

スタイリスト:滝沢真奈 ヘアメイク:山下智子

宇垣 連載では、ほぼラブレターのような『大奥』評を書いてしまいまして……。

よしなが 週刊文春で拝読しました。取り上げていただいてありがとうございます。

宇垣 そうなんですか! よしながさんに届いていたのがすごく嬉しいです。

よしなが 完結した時に書いてくださったのもとてもありがたかったです。物語として言いたいことがやっと全部言い終わった! というタイミングで受け取って、言葉にしていただいて。漫画を描いている人間にとってなかなかない喜びです。

宇垣 読み切ってから評を書きたいと思っていました。こんなに勇気の出る結末があるのかと思える、素晴らしい終わり方でした。

よしなが 読んでいる皆さんは、幸せになりそうだと思うと目の前で砂の城が崩れ落ちるような展開が続くので、辟易していたかもしれません(笑)。でもラストまで描き切ってみると意外なほどさわやかというか、まさかこういう光が見えるとは、と思いました。

宇垣 描き始めた時には希望を感じさせるラストになるとは思わなかったということでしょうか。

よしなが はい。キャラクターそれぞれの行く末までは決まっていませんでした。瀧山がアメリカに行くとは思いませんでしたし、女性である和宮は大奥にいる男性と恋に落ちるかもと考えていたのですが、思いがけず女性の将軍(家茂)と仲良くなって。

宇垣 あの二人の関係性が大好きです。血でもなく家という枠組みでもなく、女同士の信頼のもとで作られる家族もあるのだ! と思いました。

よしなが しかも恋愛関係でもない二人でしたね。

宇垣 ラストで、女性初の留学生の一人として津田梅子が出てくるのもすごく好きで。読んだ後で東京の街を見たら、すごく誇らしいような「今に見てろよ!」というような気持ちになりました。ちょうど政治家などから女性に対してのしんどい発言があった頃で……すごく救われました。

よしなが たまたまそういう時期でしたね。描いてみたら、女の人がトップに立って200年やれたのだから、またできるかもしれない、という風情のシーンになりました。

宇垣 時代の先取りが過ぎる! 予言者なのでは? と思いました(笑)。

よしなが いえいえ! 感染症の話が出てくるのでコロナについて言及されることもあるんですが、感染症自体は世界各地で繰り返し起こっているので新しいことを描いたわけでもないんです。たまたまそうなった、ということが多かったですね。

宇垣 男女が逆になれば解決する、ということではなくて、逆になったことで苦しむ男の人たちの姿も描かれているのも素敵だなと。

よしなが そうですね。男性のほうが酷いとかそういうことを描いた話では全くないんです。『大奥』では、能力はあっても男だという理由で消えていった人たちもいたわけで。そういう視点が大事なのかなといつも思います。

宇垣 本当に公平で誠実で、清濁合わせ呑んだ眼で見ていらっしゃる! と思いながら読んでいました。

――宇垣さんの新刊『今日もマンガを読んでいる』のあとがきでは、よしながさんの『愛すべき娘たち』にも触れていらっしゃいましたね。様々な女性の生き方を描く連作短編です。

宇垣 はい、大好きです!

よしなが ありがとうございます。おいくつの時に読まれたんですか?

宇垣 高校生ぐらいの時ですね。「母というものは要するに一人の不完全な女の事なんだ」というセリフ通り、母親に多くを求めすぎていたな、と思えて救われました。

「物語から生きる力をもらっている」

よしなが まだ高校生の時に読んでいただけたのは嬉しいです。単行本にする時は不安だったんです。これまで描いてきたもののように男子や食べ物がたくさん出てくるわけでもないので、何をフックに読んでくださるのだろう? と。でも何年も経ってからこうして「好きです」と言ってくださる方に会うようになって、じわじわっと描いてよかったと思えるようになりました。

宇垣 何かに苦しんでいる人にとって、「自分一人じゃなかった」と思える作品だと思います。もう本当に……ありがとうございました!

よしなが そんなふうに言っていただいて、こちらこそありがとうございます。でも漫画を読むと「ありがとうございました」という気持ちになることがありますよね。私も描かれた先生に会うと「お世話になっております」と言いたくなります(笑)。

――宇垣さんはあとがきで、物語に触れることについて「フィクションだとしても、その中で私たちが得た勇気も希望も憧れも、みんな虚構なんかじゃない現実のもの」と書いていらっしゃいましたね。

宇垣 私は、物語の中で受け止めた気持ちや揺らぎを積み重ねていかないと生きていけないので。

よしなが 私も現実から逃避するのではなく、現実に立ち向かうために、人は物語を読んでいるのじゃないかなとずっと思っていて。物語から生きる力をもらっている。生活必需品ですよね。娯楽じゃない。漫画を買うお金は生命維持費なので、節約という概念もない。新刊が出ていたら、なくなったお米を買うのと一緒で「しょうがないのよ」と思いながら買います(笑)。

宇垣 私は日付が変わった瞬間に電子書籍サイトで新刊をチェックするんですけど、「こんなに読むものがある。寝られない!」と思うんです。後に回せないので読むしかないんですよね。

よしなが 『今日もマンガを読んでいる』のまえがきにも「正直寝ていない」と書いてあったので「わあ、寝て!」と思っていました(笑)。(目次を見ながら)私も読んでいる作品が多かったです!『私の少年』(高野ひと深)、完結しましたね。「名前がない関係」で終わるお話ですよね。恋愛とか友情とかひとことでは言えない関係が人間には大切だ、という物語が今いっぱいあると思います。

宇垣 確かにそうですね。

よしなが 『違国日記』(ヤマシタトモコ)も大好きなんですが、(一緒に暮らす小説家の)槙生ちゃんみたいな叔母さんを、中学生の朝ちゃんが全面的にかっこいいとは思っていないところがリアルですよね。「よくわかんないな、この人」みたいなスタンスがいいなと。『かしましめし』(おかざき真里)も『違国日記』も「フィール・ヤング」の連載ですね。

宇垣 「フィール・ヤング」、強いですね。

――『かしましめし』は元同級生の男女3人が同居して、日々ご飯を作って一緒に食べる姿を描いています。

よしなが 『違国日記』も『かしましめし』も永久に一緒に暮らす感じはしないですよね。だから今が愛おしいというお話なのかなあと。

宇垣 『かしましめし』はあのタイミングの3人だからこそ、ですよね。傷ついている人たちが身を寄せ合っている感じが最高です。

宇垣さん衣装:ブラウス(メゾン マヴェリック プレゼンツ)、ワンピース(テラ)/ティースクエア プレスルーム その他スタイリスト私物

「作る側にいる方はどう感じる?」

よしなが 最近「別マ」(別冊マーガレット)を読んでいるんですが、描き手としてすごく勉強になります。クリスマスとバレンタインと、高校生なら夏祭りと初詣がこんなにも大切なものなんだと知りました。

宇垣 確かにそうですね。夏祭りで、ゲタの鼻緒で足を痛くしたり。

よしなが 高校生で恋をしていたら、親公認で夜外に出られる夏祭りや初詣は切実なイベントですよね。恥ずかしい話なんですが、『きのう何食べた?』の最初の何年かは描かないうちにバレンタインの時期が終わっていて。途中から恋愛というものを大事にしているケンジにとっては、大ごとなのでは? と気づきました。

――『きのう何食べた?』は弁護士のシロさんと恋人で美容師のケンジ、男性2人暮らしの食について描いた作品です。

よしながふみ『きのう何食べた?』(講談社)

宇垣 私もケンジにはすごく勉強させてもらっています。シロさんがケンジに、バレンタインに毎年同じ高級なチョコレートをあげていたら、今年はいらない! と文句を言われる回がありますよね。私もチョコレートが大好きでよく買うんですが、「最適解」だからと同じものを人にあげ続けたりしている、と反省しました。

よしなが どれだけ自分のことを考えてくれたか、に価値を置く人たちがいるんですよね。自分もそうなろうと努力するかは人それぞれですが、そういう人もいるんだということを分かってないと、と思いました。その温度感の差こそがドラマになる。胸キュンのストックがないので貯めていかないと(笑)。

宇垣 私は『大奥』でもBLでも、よしながさんの描くものでいつもキュンとしています!

よしなが ありがとうございます。でもBLでは人を好きになるきっかけが描けなくて苦心惨憺しました(笑)。

――宇垣さんが取り上げていた中で、ほかに気になる漫画はありますか?

よしなが バレエ漫画の『ダンス・ダンス・ダンスール』(ジョージ朝倉)とか美大を目指す『ブルーピリオド』(山口つばさ)は「才能」の話ですよね。人格からは遠い地平で評価される世界。もちろんずっと続ければその人の人生の佇まいが踊りや絵に表れてくるとは思うのですが、才能の面で最初にどうしようもない足切りがある。そういう世界はすごいなといつも思います。

宇垣 私は作る側ではないのでちょっと仰ぎ見るように読んでしまうのですが、よしながさんのように作る側にいる方はどう感じるのですか?

よしなが 表現する側ということですよね……だから読んでいて切ないのかなあ。デビュー前に2次創作の同人誌を作っていた時のことで言うと、好きな漫画は同じでも、「漫画を描く才能があるかどうか」ということが、その人と付き合う時の大きな基軸になっていて。その残酷さを目の当たりにすると胸が詰まる感じはしました。誰も悪くないけれど切ないことが起こってしまう。でも私はその切なさに惹かれるんだなとも思うんですよね。だから漫画にも描きますし。

宇垣 『きのう何食べた?』でも誰が悪いとは言えないけれど切ない、ということが起こりますよね。シロさんとご両親とのやりとりを読んでいると、そういう気持ちになることがあります。

――シロさんの両親は息子がゲイであることを完全に受け入れることができていません。

よしなが 学校の先生をしている方が、生徒にはそんなことを思わないのに自分の子供には自分と同じ価値観でいてほしくなってしまう、と言っていて。だからこそ親とは別の、斜めの関係の大人が子供には必要なのかなと。シロさんにとっては、佳代子さんがそうですよね。彼はもう大人ですがそれでも、「いいじゃん!」と言ってくれる佳代子さんのような大人が必要なのだと思います。

宇垣 シロさんと佳代子さん家族との交流がすごく好きです。この雑さと距離感が心地いいんだろうなと。

よしなが 実はあの2人の関係が一番ファンタジックですよね。突然スーパーで「スイカを分けましょう」と声をかけられて友達になることはまずない(笑)。

宇垣 出てくる料理を実際にいっぱい作っていて。昨日、牛肉が安かったので佳代子さんのローストビーフを作って、今煮汁につけてあります! 副菜も含めて献立通りに作ることも多いです。手順が描いてあるので、1回読んで頭にいれてから作るとすごく手際がいい人みたいになって嬉しいんですよね。

よしなが ありがとうございます。一人暮らしで自炊されているのはすごいですね。食材を使い切るのが大変じゃないですか?

宇垣 はい。使い切るために同じものが続いたりしますね。よしながさんの漫画に出てくる食べ物はとにかく全部好きです。『大奥』を読んで、うなぎも食べに行きました。

 

「食べ物を描くときだけ安心できる」

よしなが 漫画を描いていて自信が持てない時も、食べ物を描く時だけちょっと安心できるんです。食べるのが好きな方は引っかかってくださるかもしれない、と。

宇垣 読んでいて、本当によしながさんが食べることがお好きなのが伝わってきます。『愛がなくても喰ってゆけます。』の中で「あたしがこんだけ食い物に人生を捧げてきたんだから食い物の方だってあたしに少しは何かを返してくれたっていいと思うの」というセリフがあって、「私もそう思う!」と(笑)。

よしながふみ『愛がなくても喰ってゆけます。』(太田出版)

よしなが 本当に返ってくるんですよ。物事の結果はその人がその事についてどれだけ考えてきたかに比例すると思っています。私は食べたことのないものを夢とか想像で味わったことがありまして……友達が隣で食べてきたものを解説してくれて「ふんふん」と聞いていると、百分の一ぐらい味がしてくるんです。

宇垣 すごい!

よしなが 子供の頃『美味しんぼ』に出てきたムカゴを夢で食べたこともあって。大人になって実際に食べたら、夢で食べたような味でした。

宇垣 私はまだまだその域に達していません。

よしなが いやいや、私のこれは病気なので(笑)。

宇垣 よしながさんと、漫画のお話がこんなにできるなんて……ファン冥利につきます!

よしなが こちらこそ、漫画のお話をしたかったので、嬉しいです! ありがとうございました。

宇垣 すごく幸せな時間でした。ありがとうございました。

(構成 門倉紫麻)

「今日もマンガを読んでいる」小誌連載「宇垣総裁のマンガ党宣言!」を書籍化。選りすぐったマンガを熱量たっぷりに評する。

source : 週刊文春 2021年12月30日・2022年1月6日号

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