2019年にAKBグループが、博多座で『仁義なき戦い~彼女(おんな)たちの死闘篇~』を上演したのをご存じの方は少ないと思う。私はこれを見て「日本演劇界の事件だ!」と騒いだのだが騒いだのは私一人、円盤化もされず、もはや見た人の記憶の中にしか残ってない。『仁義なき戦い』の全キャストをAKBグループのメンバーが演じ、男役は男の服装だが顔はそのまま髪型もそのまま……ってキワモノみたいですが、これがすごかったんだってば! こんなカッコよくて心動かされる芝居ははじめて見たってぐらいすごかったんですってば!……信じてもらえないが。
で、この『仁義なき~』で山守義雄役(映画では金子信雄)を演じたHKT48の田島芽瑠(当時19歳)。見事なタヌキ親父ぶりが、この凄い芝居の中でも抜けて凄く、いずれ女優としてとんでもない化け物になるのではと思わされた。
そんな芽瑠ちゃんがHKTを卒業して、女優として全国区デビューを果たします『吉祥寺ルーザーズ』。
吉祥寺のナゾのシェアハウスに入居するワケありの「負け組男女6人」が繰り広げるドタバタ、しかし彼らはやがて、それぞれに抱えたものにひきずられながらも心を通わせ次の道を歩んでいくのであった……みたいな話(後段は私の勝手な予想です)。
ナゾのシェアハウス内で初回からドタバタが炸裂。濱田マリと片桐仁と皆川猿時が突拍子もない演技のアクセル踏みまくり、そんな中で田中みな実(たぶんヒロイン)が「負けない!」とばかりにがんばって突拍子を爆発させていて、何かほんとにとてもがんばっている……。國村隼と増田貴久は「落ち着いたステキパート担当」ぽいんだけど、まっすーも「バタンキューと失神」したりしてた。ほんとに今どき、バタンキューと失神してるんですよ!
そんな中、「ヘソ下につきあってる男の名前のタトゥーを入れたキャバ嬢」を演じてます田島芽瑠が、この「ある種、異様な(設定された)空間」の中で、いちばん自然なんですよ。いや芽瑠ちゃんも突拍子芝居させられてるんだが、何か、他のメンツの突拍子芝居が「がんばってる」感じなのに芽瑠ちゃんのはさほどムリがない。
「芽瑠ちゃんが素でやってる」のではないことはHKTファンだったから知っている。演技してるのに自然に見せる。突拍子のインフレ状態みたいなドラマの中で、みょうに自然なキャバ嬢。なんか、彼女が後半ですごい泣かせる役回りになったりとか期待したくなる。2回目まで見たら突拍子ドラマが徐々に「ルーザーたちのほんのりイイ話」になってきていて(予想通りすぎるが)そっち方面の演技もうまいはずだ芽瑠ちゃんは。楽しみすぎる。
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source : 週刊文春 2022年5月5日・12日号