大人には見えなくて、子どもには見えるものがあるという。
にわかには信じられない。どことなくファンタジーの香りもする。だが、若い人にしか聞こえないモスキート音というものがあるらしいから、大人に見えず子どもにしか見えないものが現実にあっても何の不思議でもない。
なによりこちらは既に大人になってしまったので、本当かどうかを確かめる術がない。何かが見えないことよりも、確かめようがないことのほうがなんだか悲しく感じてしまう。
それはさておき、今回は子どもにしか見えないもののお話である。
子どもの視点から何が見える?
駅で電車に乗るときに、気をつけなければならないことはいくつもある。横入りはやめましょう、降りる人を待ちましょう、乗ったらできるだけ奥に詰めましょう、などなどは当たり前。もちろん、酔っ払ってホームから線路に落ちる、などというのはもってのほかだ。
ホームに入ってくる電車にも注意しないといけないが、最近はホームドアのある駅が増えているから、それを意識することは少なくなっているのかもしれない。
で、ようやく電車に乗る段になって、ここで大人と子どもの違いが重要になってくる。大人なら、よほどのことがない限りは何かを意識することなく普通にホームから電車に乗り込むことができる。
ところが、小さな子どもはそうはいかない。ホームと電車の間にある“スキマ”。大人は普段の歩幅で跨げるが、子どもにとっては精一杯。注意しないと、ホームと電車のスキマに足を取られて転んだり、最悪の場合はスキマの下に転落してしまうのだ。
実はこれ、鉄道会社にとっては悩ましい問題のひとつなのだという。
“スキマ”から子どもをどう守る?
東急電鉄鉄道事業本部安全戦略推進委員会の目黒邦夫さんは次のように話す。
「東急電鉄では、2019年度末までにホームドアを整備しまして、いったんホーム上の安全対策は終わったという話もあったんです。でも、待ってくれ、と。
ホームと列車のスキマに落ちる事象があって、これはもしも気がつかないで発車してしまうと大事故につながる。実際に転落した事象は年間に約10件、片足が落ちたようなケースを含めれば100件レベルになるんです。そして、転落した事象の8~9割が6歳以下の未就学児でした」(東急電鉄・目黒さん)
この問題認識は、他の鉄道事業者にも共通している。JR西日本近畿統括本部安全推進部の羽山真規さんも言う。
「隙間転落事象としてカウントする基準は会社によって違うと思いますが、当社では近畿圏内で年間100件はいかないくらい。ただ、そのうち3割が10歳未満です。
このデータは取扱が難しくて、実際に転落したときには周囲も気がつくので件数にあがる。ただ、ちょっと踏み外しただけで終わった場合は周りも気がつかずにそのまま済んでしまうことも多い。ですから、実際には踏み外しを含めればもっと多くの事象があると思われます」(JR西日本・羽山さん)