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将棋界はより混迷の戦国時代に突入した

 一度負けてもすぐに奪い返すという羽生神話はしばらく続いたが、その神がかりさが薄れてきたのが昨年あたりからだろうか。2017年度は王位・王座・棋聖の三冠を保持してスタートしたが、王位と王座を失冠し、再びの一冠転落。竜王を奪って永世七冠に輝いたのは知られたところだが、今年度に入っては名人挑戦を果たすも2勝4敗で挑戦失敗。棋聖も2勝3敗で豊島将之に奪われた。

 そうして迎えたのが今期の竜王戦であり、フルセットまで粘ったがついに力尽きた。

竜王戦第6局は、非常に早い終局だった ©相崎修司

 羽生は無冠転落について以下のように語る。

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「結果が出せなかったのは自分自身の実力が足りなかったことに尽きる。

(通算100期がかかり)注目される中でタイトル戦という檜舞台に建てるのは棋士にとって名誉なことで、力をつけてまた新たに臨みたい」

 羽生の無冠転落によって、将棋界はより混迷の戦国時代に突入したと言える。次代の覇者候補はまず、現時点で唯一の二冠王である豊島将之(王位・棋聖)だろうか。来年4月から始まる名人戦、その挑戦権を争うA級順位戦ではただ一人無敗の5連勝と、トップを突っ走っている。

 対抗馬として、羽生から竜王を奪った広瀬を挙げたい。竜王に続き、棋王戦でも挑戦を決めて二冠奪取を虎視眈々と狙っている。A級順位戦でも豊島を追う位置にある。

大山は56歳で王将を奪取した

 その広瀬の挑戦を受ける渡辺明は、王将挑戦を決めているので年明けからは王将・棋王のダブルタイトル戦だ。昨年度は不調ともいうべき成績だったが、復権を果たす大きなチャンスだ。

順位戦でも全勝でA級復帰を決めた渡辺棋王 ©文藝春秋

 その先輩勢をまとめてごぼう抜きするかもしれない若手のホープがいる。いうまでもなく最年少棋士の藤井聡太だ。タイトル挑戦こそないが、佐藤天彦・羽生善治・広瀬章人を連破して朝日杯将棋オープンを優勝するなど、将来への期待値は十二分にあるといえよう。

 もちろん、羽生だって黙ってはいまい。大山は二度目の無冠転落後もさらに11期のタイトルを積み重ねた。なかでも56歳で王将を奪取し、最優秀棋士賞を受賞というのは晩年の大山の実績でも白眉だろう。王将のタイトルは58歳まで防衛を続けた。羽生によってその再現があってもおかしくない。

 いずれにしろ、覇権を握るチャンスは皆に等しくある。戦国時代を抜け出す棋士は現れるだろうか。盤側でその戦いぶりを観戦しながら、次代の天下人をお伝えできればと思う。

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