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これ、列車の座席というより居間だ

 その取り組みが「ライブトレイン」と名づけられたイベント列車たちだ。そのひとつ、「ごっつお玉手箱列車」に乗ってみた。「ごっつお」は秋田の言葉で「ご馳走」とのこと。

 

 車内は掘りごたつ式の座敷になっている。荷物を傍らに置くとちょっと窮屈だけど、それがなんだか愉快。これ、列車の座席というより居間だ。気取らない、ちょっと生活感のある、そう、例えるなら、友達の田舎に遊びにきたような雰囲気である。

 

 テーブルの上にお品書きがある。「けいこさんの干し柿と蒸かしいも」から始まり、「佳子さんの漬け物」「節子さんのおそば」「昭子さんの混ぜごはん」「勝子さんのおかず」「富士美さんの甘いもの」と書かれている。名前は農家のお母さんや旅館の奥さんだという。お品書きとはいえ、内容がわかるような、わからないような……。そうか、何が出てくるかわからないところが「玉手箱」ということか。

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 そして、これらの料理は出発時にはそろっていない。角館から阿仁合まで、調理設備を持たない列車で田舎料理のフルコースを提供するために、途中の駅で停車するたびに手料理が持ち込まれる。

漬物の野菜「やあこん」ってなに?

 

 お母さんたちは料理を運んでそのまま列車に乗り、料理を説明してくださる。作り方を聞くと隠さずに教えてくれる。でも、悲しいかな、独特の方言はうまく聞き取れない。すると、お母さんは言葉遣いを変えて丁寧に教えてくれた。自分で作るつもりはなかったけれど、やってみようかという気持ちになるから不思議。

「食べたくなったら、また来ればいいのよ」

 たぶん、そんな意味の言葉だろう。温かさが伝わってくる。母と同じ年くらいか、もっと年上。お元気で気さくな人ばかり。漬け物の野菜は数種類。あ、この漬け物の野菜はなんですか。やあこんです。やあこん? やーこん? やっこん? スマホで検索してみた。秋田の地野菜かと思ったら、ヤーコンという南米由来の根菜だった。すごいよ、お母さんたち。新しい素材も使いこなすのか。