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窓の景色が移ろいで見える

 

 おかずには郷土料理の「すし」が入っていた。魚を米麹に漬けた保存食。雪景色を連想する色合いだ。牛蒡の味噌漬けの風味豊かなこと。凍み豆腐の澄んだ味わい。こういう手料理、ずいぶん食べていなかったなあ。

 車内販売でビールやお酒を手に入れて雪見酒。列車の中とは思えない賑わい、温もり、ゆったり感。窓の景色が移ろいで見える。これは酔っぱらったせいかな。列車の中だからだよ。なんちゃってね。いやあ楽しい。お母さん、ぼく楽しいよ。居心地いいよ。

 

 ライブトレインにはこのほかに、時速5km~30kmの超低速で景色を楽しむ「時間(とき)のまほろば列車」や秋田舞妓を鑑賞する「あきた舞妓列車」などがある。これらも特製弁当付き、列車によってはスイーツが追加されたり、希少な地酒があったりする。どれも乗ってみたくなる。いや、もういちど「ごっつお玉手箱列車」に乗ってみようか。季節やお母さんの気分によって、毎回、違う料理を楽しめそうだ。

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韓国語と台湾語で対応する添乗員がいる

 ローカル線を旅すると、未開発の大自然の風景に感動する。けれども、素晴らしい景色があるほど、沿線に人は少なく、鉄道は赤字になってしまう。皮肉な結果である。しかし、秋田内陸縦貫鉄道はすごい。知恵と手間をかけたおもてなしで観光客を惹きつける。

 

 この日は台湾や韓国から乗りにきたグループがいた。秋田内陸線はアニメ映画のヒット作『君の名は。』に登場する駅に似た風景があると話題になったし、2009年には韓国の人気ドラマ『IRIS-アイリス-』のロケ地にもなっている。韓国からロケ地訪問ブームもあった。そんな経緯もあって、秋田内陸線には韓国語と台湾語で対応する添乗員がいる。それもすごい。

「ごっつお玉手箱列車」に乗れば、地元のお母さんたちが温かく迎えてくれる。何度か通えば、秋田出身ではなくても、この列車がふるさとになってくれそうだ。

写真=杉山秀樹/文藝春秋