一方で、人手不足に苦しむ正社員も
ここまで、学生アルバイトの視点から記述してきた。しかし、冒頭のメッセージを書いた店員を批判するだけでよいのだろうか。アルバイトを管理する店長や正社員側の立場に立てば、違った事情も見えてくる。年末年始にシフトに入ってくれるアルバイトが集まらない場合、店長や正社員自身が休みを取らずに働き続けなければならない。その結果、休むどころか、少人数で店舗の運営を回さなければならず、店長や正社員が長時間労働を余儀なくされるケースは少なくない。
通常、人手が集まらなければ、時給を上げてなんとか人手を確保しようとするであろう。しかし、大手チェーン店のような場合、各店舗には、時給について裁量が与えられていないことが多い。権限や裁量はないにもかかわらず、店舗運営の責任を担わされる店長や正社員。こう考えると、冒頭に紹介したメッセージを書いた店員の気持ちも分からなくはない。
過大な責任と人手不足が、時に労働者の生命を脅かすこともある。
2006年12月、東京都多摩市の喫茶店で「店舗責任者」を務めていた25歳の女性が、自宅マンションから飛び降り自殺をして亡くなった。もともとアルバイトとして働いていた彼女は、2006年8月に正社員として雇用契約を結び、その翌日からいきなり「アシスタントマネージャー」として店舗責任者を任されていた。接客業務はもちろん、アルバイトの募集やシフト管理、売上管理、クレーム処理までを一手に担っていたという。長時間労働と責任者としてのプレッシャーが彼女を追い込んでいった。
最も彼女を追い込んだと考えられているのが、店舗の恒常的な人手不足である。彼女が店舗責任者になった時点で、13名の従業員のうち、正社員はゼロ、11名が学生であった。その後、アルバイトが立て続けに退職してしまい、彼女の業務量は日に日に増大した。残ったアルバイトにもしわ寄せがいってしまい、次々に退職者が増えていった。亡くなる前日には、さらに2名の学生アルバイトから1月いっぱいで辞めるとの申し出を受けていたという。
問題を解決するもう一つの方法
このような職場では、学生アルバイトは常に苦しい選択を迫られることになる。辛そうな正社員のために自分の時間を犠牲にして働くか、あるいは気まずくなってもかまわないからシフトを断るかといった選択だ。どちらも好ましい選択ではない。
だから、もう一つの選択肢があることを知っておいてほしい。やはり、ここでも役に立つのがユニオンだ。ユニオンを活用すれば、正社員とアルバイトが協力して職場のあり方を変えていくことができる。たとえば、営業時間の短縮、人員体制の見直し、繁忙期の手当支給などを「交渉」によって求めていくことが可能だ。このように、職場や働く者の実情に応じて企業と「交渉」し、実現していけるところがユニオンのよいところだ。