山本芳久さん

 スコラ哲学の完成者、カトリック神学の権威――トマス・アクィナスのお堅いイメージを刷新するのが本年度サントリー学芸賞受賞の山本芳久氏『トマス・アクィナス 理性と神秘』(岩波新書)だ。

「13世紀に生きたトマスは、当時のヨーロッパ世界に“現代思想”としてイスラム圏から導入された古代ギリシアのアリストテレスの哲学に影響を受け、キリスト教神学と統合しようとしました」

 本書では主著『神学大全』をはじめ、トマスの凝縮されたテクストを山本氏が解凍してみせてくれる。わかってくるのは、驚くほど現代人と親和性の高いトマスの人間観、世界観だ。キリスト教というと、自己犠牲的な隣人愛を連想しがちだが、トマスの説く幸福とは、良き習慣で己れの徳を高め、それにより能力を十全に発揮して自己実現を成し遂げる、というものだ。しかも自己愛が隣人愛に優先する。

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「自分が自分であることを自然に受け入れている人、つまり自分と一致している人は、他者と安定した深い関係を築くことが出来るようになる。トマスは、神が創ったこの世界を本来善きものととらえ、理性の力でそれを正しく見ていこうとしました」

 若松英輔氏との対談集『キリスト教講義』(文藝春秋)も年末に上梓した。

トマス・アクィナス 理性と神秘

山本芳久

岩波新書
2017年12月21日 発売

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