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魚もいなければ漁師もいない

 日本政府観光局(JNTO)によると、2017年の訪日外客数は前年比19.3%増の2869万1000人。訪日外客の中には鮨を食べることが目的という人も多い。外国人の宿泊が多い都内の外資系高級ホテルのコンシェルジュの中には、顧客サービスの一環として、人気鮨店の数ヶ月先の予約を個人名で押さえているプロも多いと聞く。

 2020年の東京オリンピックに向け、人気鮨店の予約争奪戦はさらに熾烈を極めるだろう。

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 日本の水産資源をめぐる状況も衰退の一途をたどっている。水産庁の発表によると日本の漁業生産量は最盛期から6割減。その結果、ピーク時に70万人とも言われた漁業者は、今や15万人を切っている。さらに深刻なのは、その半数が後継者のいない60代以上であること。漁業者の平均年齢は56.7歳。魚もいなければ漁師もいない。このままでは、外国から輸入された魚で鮨を握らなくてはならない。

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本マグロの価格は2、3倍に?

 中でも鮨に欠かすことができないクロマグロ(本マグロ)をめぐる状況は深刻だ。2018年6月、全国から集まったマグロ漁師が抗議のため水産庁を取り囲んだ。参加者の多くがマグロの「一本釣り」や「延縄(はえなわ)漁」などで生計をたてる小規模漁獲者。実は太平洋クロマグロは国際的な枠組みで規制が行われていて、国ごとに漁獲枠が決められている。日本における成魚(30キロ以上)の漁獲枠は4882トン。その大半が大中型巻網(まきあみ)の漁業者に配分されたことに、小規模漁業者が反発したのだ。

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 漁師がマグロと一対一で対峙する「一本釣り」とは異なり、巻網は泳いでいるマグロの群れを高性能のレーダーで見つけ出し、一網打尽にする漁法だ。一回の操業で獲れるマグロの水揚げ量は、一本釣りで知られる青森県・大間漁協のマグロの水揚げ量のおよそ1ヶ月分に相当する。何より深刻なのが、その漁期がマグロの産卵期の夏に重なるのだ。日本近海でマグロの漁獲量は減少しているが、その要因のひとつが産卵期の巻網の影響だと関係者は憤る。しかも、巻網を取り仕切る水産会社には水産庁からの役人の天下りが後を絶たない。

 豊洲市場で本マグロを扱う仲卸店の社長は将来をこう見据える。「現在、本マグロの一匹あたりの値段は、平時であれば250万円前後。今後、マグロの資源量がさらに減少すれば、その2倍、3倍に跳ね上がる可能性もあります」