求められる「産後の母親に対するケア」
筆者もまた、育児ノイローゼの状態になり、壮絶な産後うつを経験した。精神的に追い込まれ、子どもを前に何もできなくなり、高齢者用の流動栄養食を飲み、這ってトイレに行く毎日で、半年間寝たきりになった。何度も自殺を考えた。
しかし、妊産婦のメンタルヘルスが注目されるようになったのは欧米でも1980年代後半。日本では産婦人科医や精神科医の間でもまだ認識が薄く、本人はおろか、医師や助産師でも「産後の疲れが続いているだけ」と見過ごしたり、周囲も「サボっている」と誤解したりしがちで、気がつけば重症化している例も多い。
日本の母子保健制度は母親よりも新生児や乳幼児に対するケアに重きが置かれているため、産後の母親に対するケアが見過ごされてきたのも大きい。実際、赤ちゃんは生後1か月、4か月、8~10か月、1歳などと定期的な健診を受けられるが、母親は産後ひと月も経てば、あとは産婦人科では診てもらえなくなる。
そこで、国は妊娠中から育児までをトータルサポートしていこうと、2014年から「妊娠期から子育て期にわたるまでの切れ目ない支援」として「妊娠・出産包括支援モデル事業」を開始した。目玉はフィンランドのネウボラ(相談の場)をモデルにした「子育て世代包括支援センター」の市町村への設置で、20年度までの全国展開を目指している。また、産後うつの早期発見のために、17年4月から、産後2週間と1か月に健診を行う自治体への助成を始めた。名古屋市や京都市、横浜市など一部ですでに始まっており、赤ちゃんの健診に加え、母親の心身のチェックも行われている。
産後うつが疑われる場合、まずは地域の担当保健師が窓口になるが、まだまだ産後支援は始まったばかり。子育て中の母親が孤立しない仕組みづくりと、周囲のサポートが今こそ求められている。
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