お召し列車は鉄道員たちの誇りでもある
国民にこうした負担をかけたくないというご意向が伝わり、今上天皇は定期列車にご乗車される。もっとも、いまや全国どこへでも鉄道でという時代でもない。航空機もご利用になるし、自動車(こちらも御料車と呼ばれる)で高速道路を行く場合もある。お召し列車にご乗車される機会そのものが減っている。
こうした状況の中で、三代目1号御料車の後継車両を作るべきか。お召し列車のあり方について、JR東日本と宮内庁は検討を重ねた。御乗車の機会は少なくとも、お召し列車は必要ではないか。お召し列車は日本の文化のひとつであり、鉄道員たちの誇りでもある。しかし、民間企業が運行機会の少ない車両を保有するという負担こそ、陛下のご意向に沿わないのではないか。
その結果として作られた電車がE655系「なごみ(和)」である。お召し列車として使うけれども、お召し列車専用ではない。皇室や国賓のための特別車両を1両だけ作り、それを連結したときだけお召し列車、国賓専用列車とする。残りの5両は一般に開放し、団体専用列車として使う。こうして、内外装に宮内庁の意見を反映し、車両には鉄道技術の粋を集めた「ハイグレード車両」が落成した。
かつての御料車には形式名を付けなかった
お召し列車としても使われる車両に、国民が乗れる時代が来た。E655系はまさに、開かれた皇室、国民に身近な皇室を象徴する列車というわけだ。
ちなみにE655系という形式名は、EがJR東日本、6は直流電化区間と交流電化区間の両方に対応、5は特急・急行用で、末尾の5はモデルナンバーで、1、3、5と通番する。ちなみに651系は常磐線特急「スーパーひたち」として誕生した。E653系は特急「フレッシュひたち」向けに作られた。かつての御料車には形式名を付けなかったから、これもお召し列車用としては画期的だ。
ふだんのE655系は団体ツアー列車として運行されている。旅行会社各社で「E655系(なごみ)で行く○○」というツアーを販売している。たとえばJR東日本系列の「びゅうツアー」だと『往復ハイグレード車両E655系「なごみ(和)」利用 日帰り河津桜まつり』が26,800円。クラブツーリズムは『往路ハイグレード車両なごみ貸切運行 日帰りで行く松本自由散策』が19,900円。日帰りツアーとしては高額だけど、お召し列車の車両に乗れると考えればお手頃に思える。