将棋は、スマートフォンの画面と相性がいい。プロの将棋を同時進行で見ると、局面を考えることと、勝ち負けを予想しつつハラハラすることの2つの点で楽しめる。「将棋連盟ライブ中継」アプリの月額550円(税込)は「非常に安い!」。将棋連盟はネットの将棋中継でもっと稼ぐ手段を考えなければならないのではないか、と私は常々思っている。

 さて、私の棋士の好みを一言で言うなら「特長あるチャレンジャー」だ。もともと、選挙では与党よりも野党、競馬でも大本命馬よりも対抗馬の方を好む傾向がある。しかし、挑戦する側なら誰でもいいということではない。

中原名人が「正義の将棋」だった時代

 私は大学で将棋部員だったが、レギュラーになるほど強くはなれず、アマチュア四段くらいで卒業し、その後強くはなっていない。現在、将棋ソフトの四段の設定にはなかなか勝てない。詰将棋は15手詰めくらい(「詰将棋パラダイス」の表紙作品くらい)までなら自分で考えてみようかという気になる、という程度の棋力だ。

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1972年、大山康晴王将(右)と盤を挟む中原誠名人(左) ©文藝春秋

 私が将棋に熱心だった高校、大学の頃は、中原誠十六世名人が棋界のトップに立っていた。中原名人が大山康晴十五世名人に勝って名人になるまでの実戦を集めた『中原誠実戦集 全3巻』が、我が勉強時代の将棋のバイブルだ。中原名人の将棋は「自然流」と呼ばれ、これが当時の「正義の将棋」だった。

 だが、私が当時最も好きで応援していた棋士は中原名人ではない。私が熱心な中原ファンになったのは、盤面も私生活も大胆だった現役末期のことだった。何とも人間的で大好きだった。

「空中戦法」と呼ばれる独創的な戦法

 私は、内藤國雄九段の将棋が好きで、長年、内藤九段を応援していた。内藤九段こそ「特長あるチャレンジャー」の名にふさわしい。

タイトル獲得通算4期の名棋士・内藤國雄九段。2014年に現役引退している ©文藝春秋

 内藤九段は、当時、「空中戦法」と呼ばれたが、後手番で横歩を取らせて、3三角から8四飛車と構えて、薄い玉形のまま主に飛車・角・桂馬と歩を使って攻める独創的な戦法を駆使した。後手番でも序盤から攻めることができ、手作りが多彩で楽しい。学生時代の筆者はこの戦法が特に好きだった。おかげで、近年のプロ同士の横歩取りの戦いにも親近感を持つ事が出来る。一時期8五飛型(中座飛車)が流行って訳が分からなくなったが、近年、また8四飛型がよく指されるようになって喜ばしい(佐藤天彦名人に感謝する)。

 また、内藤九段は詰将棋に造詣が深く、作品が美しかった。長編には全く歯が立たなかったが、内藤九段の詰将棋と必至の本を繰り返し解いて、私は少々強くなった。「指す将棋ファン」としての私にとっては、内藤九段が最大の恩人だ。ご本人には一度も会ったことはないが、お礼を言いたい思いだ。

 内藤九段は順位戦で長くA級を維持した。私は、何としても一度内藤九段に名人戦の挑戦者になって欲しかったのだが、その機会はなかった。これは、今でも残念だ。大山、中原両名人と比較すると、ギリギリの所で勝負に淡白だったのかも知れない。

歌手としても「おゆき」がミリオンヒットとなった(写真は朝日放送「おはよう土曜の朝に」より)