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ワクチンで感染が「60%減少」の意味 

 インフルエンザにはいろんな予防法がありますが、実際のところどれくらい効果があるのでしょうか。たとえば、真っ先に思い浮かぶのが、「インフルエンザワクチン」です。

 厚生労働省のホームページに紹介されている数字を見ると、2015年から16年のシーズンの研究では、ワクチンを接種した6歳未満の子どもの発病率は、ワクチンを接種しなかった人にくらべ約60%減少したとされています(厚生労働省「インフルエンザQ&A」)。

「60%減少」と聞くと、ワクチンを打った100のうち60人の感染を防げたと思うかもしれませんが、そうではありません。この数字はワクチンを打たなかった子ども100人のうちインフルエンザに感染したのは30人だったが、ワクチンを打った子ども100人では感染が12人だったという意味です【(30-12)÷30×100=60%】。言い換えれば、ワクチンを打てば100人のうち18人(30-12=18人)は防げるけれど、ワクチンを打っても12人は感染するということです。

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©iStock.com

 実際、「ワクチンを打ったのにインフルエンザになった」という経験のある人もいるでしょう。厚労省も前出のホームページで、「現行のインフルエンザワクチンは、接種すればインフルエンザに絶対にかからない、というものではありません」と明記しています。

年齢が高くなるほどワクチンの予防効果は薄まる

 それに、これはインフルエンザにかかった経験の少ない「6歳未満の子ども」のデータで、しかも「症例対照研究」という数字に偏り(バイアス)が入りうる研究です。インフルエンザワクチンの感染予防効果は、年齢が高くなるほど低くなることを示唆するデータがあり、成人だとより効果を実感しにくい可能性もあります(日本臨床内科医会インフルエンザ研究班編「インフルエンザ診療マニュアル」2015‐2016年版・第10版)。以前、この研究を行った研究者に取材したところ、「大人はすでにインフルエンザに何度もかかった経験があり、もともとウイルスに対する抵抗力が強いので、ワクチンの効果が出にくいのではないか」とのことでした。

 このように、現行のワクチンではインフルエンザの感染を完全に防ぐことはできません。それでもなぜ、高齢者施設や病院では入所者や従業者にワクチンを打つのかというと、それは感染のリスクを下げたいだけでなく、厚労省がワクチンを打てば「重症化」や「死亡」を減らせるとしているからです。ただし、ワクチンを打っても高齢者施設や病院では毎年のように集団感染が起こり、死亡者が報告されています。