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“借金までして産んだ”と言われて

 逸子はダンスホールで知り合った静徳と結婚し、夫婦でダンスの先生になることを夢見て長崎に出る。しかし需要はなく、パチンコ屋の住み込み店員となる。中絶を繰り返した末、ついに半ば夫を欺いて、25歳で娘・静子を産んだ。

「“借金までして産んだ”と何度も言われましたよ」

内田春菊さん

 家計のため、逸子はホステスになる。安いカーテン生地でロングドレスを縫い、得意のダンスで客をリードする彼女は人気者になる。

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「私もホステスをしていた頃いろんな目に遭ったので、母もこんな思いをしたんじゃないかな、と想像で描いた部分が多いです。ただ小説内の逸子と同様、母も文学少女でした。カーテン地でドレスを作るなんて、『風と共に去りぬ』のスカーレット・オハラの影響を受けていたかもしれません」

 売れっ子になるにつれ夫婦仲は冷えていく。その頃、客で、妻子ある製薬会社の男が、逸子が読む本の内容に興味を示し、彼女の心を掴む。その男はやがて逸子を離婚させ、家に上がりこむようになると、生意気な娘・静子に興味を示すようになる。知能指数200近くで小学校ではほぼ満点をとり、母親の綴り間違いを大笑いする娘と、暴君化していく男。夜の仕事で朝は辛いのに男に命じられるまま子供らの朝ご飯を準備する逸子、深夜に男の食べたがる食材を調達する逸子。彼女なりに男と子供のために身を粉にするその姿は、昭和を生きた多くの女たちの姿に重なってくる。

「もちろん私も母に同情する部分はあります。でも守ってくれなかったことがどうしても納得できない。後半部分には苦労しました。母親視点で書いているのに視点人物への怒りがこもってしまう。でも読んでくれる人のことを考え、筆が感情的にならないように極力努力しました。小説好きの下の娘が“すっごく面白かった!”と言ってくれたのが、嬉しかったですねえ」

うちだしゅんぎく/1959年、長崎県生まれ。様々な職業を経て、84年に漫画家デビュー。性を包み隠さず描き女性漫画家の新時代を拓く。87年発表『南くんの恋人』は世界的人気を得る。2018年、大腸がん体験を描く『がんまんが』が話題に。

ダンシング・マザー

内田 春菊

文藝春秋

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ファザーファッカー (文春文庫)

内田 春菊

文藝春秋

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