1966年作品(88分)/東映/2800円(税抜)/レンタルあり

「網走番外地」シリーズの自由さは邦画史上でも屈指だ。

 主人公の橘真一(高倉健)が網走刑務所に収監されているところから物語が始まり、出所して辿り着いた先でトラブルに巻き込まれ、最後は悪党と戦って退治するもそのために網走へ逆戻りする――という基本フォーマットはあるものの、シャバに出てから繰り広げられる展開は、設定も舞台となる場所も含めて、毎回バラエティに富んでいる。

 そのため作品の雰囲気も、それぞれ大きく異なることに。主人公のキャラクターや、田中邦衛、由利徹、砂塚秀夫、嵐寛寿郎といったレギュラーの俳優陣、そして「網走刑務所から出て、最後に網走刑務所に戻る」といった要素によって辛うじて「シリーズ」としての統一感の体裁を保っているが、何が飛び出してくるか分からないワクワク感を味わうことができる。

ADVERTISEMENT

 今回取り上げる第六作は、その最たるものだ。タイトルからして『網走番外地 南国の対決』。「網走」なのに「南国」である。公開時のポスターやDVDジャケットに写っているのは、煌々とした太陽の下で日焼けしたムキムキの上半身を晒して凄む高倉健。これだけでもう、極寒の刑務所と雪原だけで展開された第一作から随分と遠くなったと思わされる。実際、本作の舞台となる場所も網走からかなり遠い。なにせ沖縄なのだ。

 しかも、冒頭でいきなり橘が出所しているため、「網走」はほぼ出てこない。開始数分で、舞台は沖縄へ向かう海の上。それから終わりまで、沖縄のギラつく太陽の下で物語は展開していく。タイトル通り、シリーズでも屈指の「網走」感のない作品である。

 出所と同時に組織を破門された橘は、先代親分の死や自身の破門の真相を探るため、組の後継者・関森(沢彰謙)がいる返還前の沖縄へと向かう。沖縄では本土から来た悪徳やくざと現地の企業とが対立、橘はそこに巻き込まれていく――という筋自体は、任侠映画としては定型的だ。

 が、先に述べたような映像の中で繰り広げられているため、従来の任侠映画のような重々しさはまるでない。敵のほとんどはアロハシャツに身を包んでいるし、橘の相棒の大槻(田中)は赤の麦わら帽子を被ったり、ピンクのシャツを着たり。そしてその背景には、エキゾチックな街並みや煌(きらめ)く海。どこまでもファンシーでカジュアルなのだ。

 最後の殴り込みに向かう橘の画も「夕陽をバックにしたシルエット」という、東映作品らしからぬオシャレさ。フランス映画のようなたたずまいの映像が全編を貫いている。

 つくづく幅広いシリーズだと思い知った。

泥沼スクリーン これまで観てきた映画のこと

春日 太一

文藝春秋

2018年12月12日 発売