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羽生善治の研究パートナーが見た「知られざる研究方法」と「オヤジギャグ」

羽生善治の研究パートナーが見た「知られざる研究方法」と「オヤジギャグ」

羽生さんが「人と違う」としたら、それは将棋に対する意識である

2019/02/01
note

なぜ、羽生さんが私を研究パートナーに「指名」したのか

 羽生さんは「将棋とは難しいものであり、一生をかけても極めることのできない大きな世界である」と考えている。その信念と思想は、AIやソフトに対する考えにも色濃く反映されているように思う。

 ソフトが示す指し手が戦術研究の最先端をリードしている現代の将棋界にあっても、「ソフトが絶対に正しいと信じ切ってしまうことがないように、いつも注意しなければならない」という考えを羽生さんは持っている。その理由については前述の書に詳しく書いた。トッププロの凄みを多くの方々に感じ取っていただきたいと考えている。

 最後になぜ、羽生さんが私を研究パートナーに「指名」したのかという謎について触れておきたい。

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 羽生さん自身は、2014年にテレビ番組『夏目と右腕』(テレビ朝日系)の取材を受けた際、研究会をスタートさせる前に、私が将棋専門誌に連載していた序盤戦術の内容を評価しての「指名」であると説明していた。

八王子将棋クラブにおける最後の「羽生指導対局」の日に手合係をつとめた長岡五段。左は席主の八木下征男氏 ©弦巻勝

小学生時代には指導対局を受けたことも

 ちなみに羽生さんは2008年の竜王戦で、当時の渡辺明竜王にまさかの3連勝4連敗を喫したが、羽生さんから電話がかかってきたのは、「100年に1度の大勝負」と言われたこのシリーズ決定局(第7局)の約2週間後のことであった。

 私はこれまで「なぜ私なのでしょうか」と直接、羽生さんに質問したことはない。私にとってその答えは必要ないからである。ただし、羽生さんの将棋に対する考えを知るうえで、強い棋士とは言えない私を指名した意味はそれなりに重要だと思ったので、今回の本で、私なりの考えをできるだけ詳しく述べた。

 私は東京・八王子市に生まれ育ち、年長(5歳)のときから少年時代の羽生さんが腕を磨いたことで知られる「八王子将棋クラブ」(2018年をもって閉所)に通った。小学生時代には指導対局を受けたこともあり、私がクラブの後輩にあたるということは羽生さんにも認識されていたと思う。もし、そのことが理由のひとつにもなっているとしたら、私は人生の幸運な偶然に感謝したい気持ちでいっぱいである。

羽生善治×AI

長岡 裕也

宝島社

2019年1月28日 発売

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