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多忙、重圧、客席の携帯と戦った日々――講談師・神田松之丞が語る仕事と日常

神田松之丞、真打への道 #2

2019/02/11

genre : エンタメ, 芸能

note

「芸を気迫で打ちのめした感じでした」

――私はB日程に行ったので、「惨劇」には立ち会ってませんが、そうするとA日程とB日程ではまったく別物と考えた方がよさそうですね。

 

松之丞 違いましたね。これだけ違うものか、という発見もありました。A日程の5日目は、「もしもーし」と聞こえたにもかかわらず(笑)、とにかく気合が入りまくって、芸を気迫で打ちのめした感じでしたよ。パッションというか、気持ちがすべてを制圧したような感じでした。AとBとを比較すると、1日目から4日目まではB日程の方が出来が良かったと思います。Bでは一度、話を通して読んでいるという余裕もありますし、演出を変えたところもうまくいったりして。ただ、5日目だけを比較するならAでしょうね。Bの千穐楽はちょっと稽古しすぎたというか、こなれた感じになっていたかな、と感じています。

――それにしても『慶安太平記』を通して聞くと、様々なことに気づかされます。由井正雪が仲間を集めるところは、明らかに黒澤明の『七人の侍』を連想させますし、連続物は当然のことながらマンガ連載の起源ですね。

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松之丞『慶安太平記』は読んでいても発見があるんです。この話は、師匠の松鯉から「記憶力のいい若いうちに、覚えるだけ覚えておいた方がいい」と前座の早い段階で教えていただいたものです。その時は覚えることにフォーカスして気づきませんでしたが、このお話は江戸時代の「家」にまつわる話だったんです。改易や転封、三代将軍家光の時代までは苛烈な武断政治が行われていた。それが「慶安の変」が起きたことで、徳川幕府は、文治政治へと転換していったわけです。家にまつわる思い、怨念がドラマティックな物語に収斂していたのが『慶安太平記』で、今回、この話のとてつもない魅力を再発見できた喜びがありました。10年後、20年後に通しで読むと、また違った発見があるでしょうね。だからこそ、お客様にも講談を聞き続けていただけたら、と思っています。

写真=榎本麻美/文藝春秋

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