2020年2月の真打昇進が決定した講談師・神田松之丞。インタビュー後編は、「慶安太平記」全19席など、大仕事に挑んだこの年末年始を振り返る。“今もっともチケットの取りにくい男”の仕事と日常——。(全2回の2回目/#1より続く)
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午前中はカレー、高座の前はシウマイ弁当
――それにしても年末から年始にかけては怒涛の日々でしたね。年が明けて1月4日からは、『慶安太平記』の全19席完全通し読みを、前夜祭も含めて11日間連続で行われた。おととしの『畔倉重四郎』、去年の『寛永宮本武蔵伝』に続き、お正月は松之丞さんの連続物が風物詩になりそうです。
松之丞 幸せな11日間でした。レギュラーのラジオと黒木瞳さんに会える仕事以外はすべてお断りして、この期間は高座にすべて集中できる環境を整えました。1日をルーティーンで回していく感じで、朝は7時に起き、その日読むところをさらう。午前中の食事はイチロー選手みたいにカレーライス。味に変化はなし。ジョギングも日課に組み込んだんですが、道の途中に焼き芋屋があるんで、買って帰る。ところが、焼き芋屋のオヤジが日によっては準備が出来ていなかったりして、「俺のペースを乱すな」とプイプイしたり(笑)。
――オヤジは気づいてたんですかね。
松之丞 殺気を感じていたかもしれません(笑)。そして夜7時からの高座に向けて、夕方5時には会場の「あうるすぽっと」に入り、高座の前は崎陽軒のシウマイ弁当を食べる。
――ずっと、崎陽軒ですか。
松之丞 そうです。崎陽軒のシウマイ弁当は絶対に味にブレがない。もしも、毎日違う弁当だとしたら、ハズレの時に妙なストレスがかかってしまうので、それを避けたかったんです。それも、すべてを講談に集中させるためです。なぜ、この11日間が幸せだったかというと、「しっかりと稽古をして講談を読むことが、自分にとっていちばん幸せなことなんだ」と再確認出来たからです。
――裏を返せば、それが出来ない日々が続いていたという……。
松之丞 12月はかなり疲れ切っていました。フリーランスの悲しさで、可能な限りの仕事を引き受けて、「自分はどれくらい働けるんだろう?」と考えた時期もあり、無謀なほど働いていました。そうした生活を続けていると疲れが抜けず、ストレスが溜まっていき、講談の質にも影響が出る。正直、モチベーションも低下していました。