“講談界の風雲児”神田松之丞。2020年2月の真打昇進が落語芸術協会から正式に発表されたのは、昨年12月28日のことだった。協会によると、先輩9人を抜いての抜擢。かつて文春オンラインのインタビューで「2年後には真打にさせろ!」と語ったこともあるが、現実となったいま何を思うのか。昇進の胸の内と舞台裏を語る。(全2回の1回目/#2へ続く)
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「どうして真打になれないんだ」
――去年の年末、松之丞さんの2020年2月の真打昇進が決まりました。本当におめでとうございます。
松之丞 ありがとうございます。無礼すぎるやさぐれ方で「2年後に真打にさせろ!」と言っておいて本当に良かったです(笑)。
――言葉にすると、実現するものなんですね(笑)。12月28日に落語芸術協会(芸協)の理事会で真打昇進がようやく決まりました。
松之丞 関係者のご尽力の賜物です。当初は2019年11月という話を頂戴したんですが、スケジュールをいろいろ調整していただき、2020年2月11日の新宿末廣亭中席で披露興行をさせていただくことになりました。本当にこのタイミングで良かったと思っていて、生意気ながら去年の暮れには「どうして真打になれないんだ」という怒りにも似た感情が正直あったんです。
――そんな状態で高座に上がっていたんですか。
松之丞 それといそがしさが相まって、高座にも影響が出るほどで。頑張っていても認めてくれないのは辛いなぁーと、やさぐれていった部分もあったと思うんです。僕もあと数年、真打昇進を待つことになっていたら、精神状態がどうなっていたか……。組織に対する不信感が芽生えてしまい、芸協に対する思い入れも変わっていたかもしれません。人生のチャンスってそんなにないんですよね。ありがたいことに、このタイミングで昇進が決まり、芸協に骨を埋め、講談界に貢献出来るような芸人になりたいです。
僕にとってはこのタイミングだった
――芸協の最後の抜擢は、1992年の春風亭昇太師匠以来、実に28年ぶりのことになります。
松之丞 講談の若手では三代目の(神田)山陽兄さんに目をかけていたのに、いまは行方不明になったままですから(笑)。よく思っていない師匠や先生方も大勢いらっしゃるでしょう。兄さんもいつか帰ってきて欲しいですし、私自身も誤解の無いように、受けた恩を下に返していく責任はありますね。
――松之丞さんは二ツ目のユニットである「成金」のメンバーとして活動されてきて、形として何人かの先輩を抜いて真打になるわけですが、成金メンバーとの関係性に影響はありませんか。
松之丞 抜擢と報道されていますが、日本講談協会では香盤通りの昇進になります。そもそも講談と落語はジャンルが違うので、抜くも抜かないもないと思っています。形だけで。少し先にチャンスがまわってきたから、やってきますくらいの私はイメージです。芸の世界は長い勝負ですから、抜いた抜かれたで一喜一憂するものでもありませんし、僕にとってはこのタイミングだった、ということなんだと思います。抜擢はともかく、真打昇進を師匠が喜んでくれてるのは最高にうれしいですね。