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「いまの僕の不安は、打ち上げと体重と物販です」 講談師・神田松之丞が語る真打昇進

神田松之丞、真打への道 #1

2019/02/11

genre : エンタメ, 芸能

note

「前座たちは多分僕のことを尊敬していない(笑)」

――たとえば、明るい「潮来の遊び」(「天保水滸伝」第五話。質屋のお堅い息子が潮来の遊郭に連れていかれるという、落語の「明烏」にそっくりのお話)とか、明るくて良さそうですね。

松之丞 「潮来の遊び」だと、ちょっと軽すぎるんです。真打昇進興行では、先輩方も後輩も「コイツはどれくらいの腕を持ってるんだ?」という見方をなさいます。それはそれはシビアに思うものですよ(笑)。そうなると2月中席昇進という冬の時期に「赤穂義士伝」。または「中村仲蔵」、「淀五郎」などの芝居噺、一席物が主力になっていきますが、通常は45分くらいかかる話も多いので、それを1年かけて寄席サイズの25分、30分にブラッシュアップしていくことになります。これから読み物もさらに増やします。

 

――2018年は日本講談協会にドッと前座さんが入りましたが、松之丞さんが真打になると入門希望者がさらに増えそうです。

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松之丞 いま、前座が6人と見習いが1人います。楽屋に活気があって、ものすごくいい。数年前と比べたら、夢のようです。でも、その前座たちが多分僕のことを尊敬していない(笑)。

――松之丞さんに憧れて、という人もいるでしょうに。

松之丞 そんなことないんです。「兄さんのスタイルには功罪があるよね」みたいな感じで見てるんじゃないかなあ。だから頼りになるなぁと。

もし弟子入り志願者がたくさん来たら……

――すでに、松之丞さんのところに入門希望者が来てましたよね。

松之丞 2年ほど前に学生さんが、神楽坂での独演会が終わったあとに「弟子入り予約」をしてるんです。そんなの受け付けてないですけど。本当に来るかなあ。ただし、真打になって1年目は僕にとっても勝負どころですから、難しいなぁと。それに人間、向き不向きはありますから、弟子入りを志願してきても、期限を切って向き不向きを判断してあげるのも大切だと思ってます。実際、立川談笑師匠がそうした仕組みを採っていて、それは「優しさ」の表れでしょう。もし仮に多くの弟子入り志願者が来たと妄想すると、別の道を勧める事になるかもしれません。

 

――厳しい師匠になりそうですか、それとも優しい師匠になりますか。

松之丞 答えになっていないですが、本当は50歳くらいから弟子は取りたいですよね。その年齢が一番良いなぁと思います。講談の技術と、人間性の高みの調和が(笑)。私の年齢は、講談の技術がまだ未熟でイライラしているという状況で。それに、私の所にくる時点で才能がない気がしますから。3人くらいつぶれて、4人目から私も弟子との接し方を学ぶかも知れません(笑)。もっとも、ウチの師匠は本当に優しく接してくれてます。でもその後ろには厳しさが背景に見えるから、そうしなくても大丈夫なんですね。年齢によって、そこらへんは変化するものなんじゃないですかね。僕が理想とするのは落語のネタで言う「町内の若い衆みたいな講談教育」です。

――えっ?

松之丞 30代だと、私自身の芸がこれからですから、やっぱり良くないんですね。30代の師匠の伸び盛りの芸の近くにいる環境はプラスですが、稽古に関しては良い教育は難しいです。なので、講談界の先生方からいろいろな話をよってたかって教えていただけるように出来たらいいな、と思ってます。そのためにはどれだけでも、他の先生方には頭を下げます。まぁまぁ今のところ、弟子が来たらの妄想です。それよりも心配なのは、真打昇進興行の打ち上げですよ。