「オカマ」と呼ばれていることがバレるのが恐怖だった
ちょうど、その頃になると、小学校では、周囲の子から「オカマ」と呼ばれるようになっていた。自分で意識はしていないのだけど、僕の仕草、例えば、走るときの腕の振り方や、座る時の脚の角度が、どうやら女の子っぽいらしく、男なのに女っぽいから「オカマ」なのだそうだ。
「オカマ」と呼ばれることは、もちろん嬉しいことではなかったが、自然にしているだけで、女の子っぽくなってしまうのだから、そう呼ばれてしまうのは仕方のない事だと思い、諦めていた。
けれども両親や学校の先生をはじめ、周りの大人達が、ぼくが「オカマ」と呼ばれていることを、とても気にして騒ぐものだから、その度に心苦しく、惨めな気持ちになっていった。ぼく自身は、なんて呼ばれようと構わないのだが、それが大人たちに知られることが、次第に恐怖となっていった。
「七崎くんって、『オカマ』かい?」
そんな学校生活を送っていた、小学2年のある日、「ぼくは“ふつう”ではないのだ」ということを強烈に思い知らされる出来事が起こった。それは「帰りの会」と呼ばれる、帰る前のホームルームの時間に、担任の先生の一言から始まった。
「七崎くん、ちょっと前に出てきてくれるかな?」
担任は、年配の女性で、いつも笑顔の優しい先生だったが、この時の先生に笑顔はなかった。急のできごとに戸惑ったが、ぼくは言われるがまま、先生の横に並び、クラス全員の顔を見つめた。クラスのみんなも、不思議そうに僕を見つめている。
そういえば、以前にも「帰りの会」で、みんなの前に立った子がいた。あの時は、先生が「○○君が転校することになりました」とか言って、その子はどこか遠い学校へと転校していった。だからぼくは、自分が転校することになったのだと、この時思ったが、先生はぼくの肩に手を置き、みんなに向かってこう言った。
「七崎くんって、『オカマ』かい?」
心臓がドキリとして、意識が遠くなっていく感じがした。教室は静まり返り、みんながぼくに無言の眼差しを向けていたが、ぼくは俯き、床を見つめて立っているだけで精一杯だ。先生はもう一度繰り返した。
「七崎くんって、『オカマ』なのかな? 先生は、七崎くんの事を『ふつうの男の子』だと思うんだけど、どうしてみんなは七崎くんを『オカマ』って呼ぶのかな?」