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日本人はいつからバレンタインにチョコを渡すようになった? 「モロゾフ」説と「メリー」説を検証

2019/02/14
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「義理チョコ」はなぜ誕生した?

 ハロウィーンもそうだったように、舶来のイベントは国内に定着するのに時間がかかる。そして定着するやいなや、目まぐるしく変質する。バレンタインも例外ではない。チョコレートを介したコミュニケーションは、世相や若者の気風を写し取るように変化していく。

 その黎明期から1970年代までのチョコレート導入期においての「バレンタインチョコレート」は「女から男への、恋の打ち明け」という意味での「本命チョコ」として浸透していくが、日本オリジナルのバレンタインカスタマイズが始まる。しかも日本人の国民性を携えて。

 初期のカスタマイズは「シャイ(恥)」な日本人の気質、「ムラ社会」という日本社会の特徴、「返礼品」という日本社会の習慣が反映されている。1970~80年代に登場した「義理チョコ」や「ホワイトデー」がそれだ。

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「女から男への、恋の打ち明け」というイベントは浸透しても、国民性はそうそう変化しない。当時の女性たちは現在よりもシャイだったし、過酷なムラ社会に生きていた。

 本命への告白には、気恥ずかしさが伴う。また、学校や会社という小さなムラ社会で、安全・快適に暮らすには、攻撃材料にされないような工夫が必要だった。勇気を出せない同性からの嫉妬、男性の上司や先輩からの羨望を込めた嫌味。ムラ社会で生き延びるには、攻撃対象になってはならない。そこで生まれた工夫が「義理チョコ」である。

「義理チョコ」とはその性格を考えると、本来「筋違いチョコ」とも言うべきものだ。「本来、差し上げる必要はありませんが、そんなあなたから筋違いな責め苦を負わないため」のチョコ。本来何の義理もないが、筋違いな忠義を求める心に火をつけないために必要な処世術アイテムだった。

 1982年12月22日付の日本経済新聞の「ロッテは来年のバレンタインデー向けのチョコレート商戦で(中略)女の子が男の子へ"あいさつ"がわりに気軽にプレゼントするという"義理チョコ"が最大の売れ筋とみた」という記事からも現象に対するメーカーの後追い戦略であることが窺える。