いま欧米では「反緊縮」を掲げた〈レフト3.0〉の経済政策が大きなうねりになりつつあるという。若年層を中心に民衆の熱烈な支持を集めているこの現象とは何なのか? 以前からいち早くこのトレンドを分析してきた立命館大学経済学部の松尾匡教授が、今回、2019年統一地方選と参院選で「人々の生活のために積極的な財政支出」を掲げる予定候補者に「薔薇マーク」を認定するというユニークなキャンペーンを立ち上げた。借金まみれの超高齢化社会ニッポンを救う驚きのビジョンとは?

松尾匡教授 ©末永裕樹/文藝春秋

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「反緊縮」というトレンド

――いま欧米で沸き起こっている「反緊縮」というトレンドは、これからの日本経済を考えるうえでも重要となるキーワードの気がします。先生は、昨年出された『そろそろ左派は〈経済〉を語ろう』(ブレイディみかこ、北田暁大共著)の中で、そんな欧州左派の新しい動きを「レフト3.0」と名付け、大きな話題を呼びました。いま世界では何が起きているのでしょうか。

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©末永裕樹/文藝春秋

松尾 近年、欧米の左派からは「反緊縮」の経済政策を掲げて民衆の強い支持を得ている、新たな潮流が沸き起こっています。具体的には、まず筆頭に挙げられるのがイギリス労働党を率いるジェレミー・コービンです。それまで労働党の指導部がEU当局や大企業といったエスタブリッシュメントばかりに目を向けて緊縮政策をとっていたことに、民衆のあいだでは根強い不満がありました。2015年の党首選のときに「人民の量的緩和」を掲げたコービンは、イングランド銀行が作ったお金で労働者向けの住宅をはじめ、福祉や教育へ積極的な財政支出をします、雇用を生み出します、と約束して圧勝したんですね。とくに若年層から絶大な支持を集め、いまや支持率はメイ首相の保守党を超えました。

 昨年のアメリカの中間選挙では、「民主社会主義者」サンダース派の28歳女性オカシオ・コルテスさんが史上最年少で議員となり、話題を呼びました。サンダースにはもともとMMT理論(Modern Monetary Theory)というポスト・ケインズ学派の経済顧問がついていますが、この学派は「財政の収入と支出(プライマリーバランス)を合わせる必要はない」という立場です。コルテスはツイッターで、「MMTの考え方をみんな共有しなければならない」と発信していますね。

既に国際的な連携も

 ホットな動きとしては、昨年末、サンダースはギリシャの急進左翼党政権で当初財務大臣だったヤニス・バルファキスと組んで反緊縮の国際組織Progressive Internationalを立ち上げました。バルファキスはDiEM25というEUを民主化する運動を立ち上げていて、そこでグリーンニューディールなどを打ち出している存在です。こうした国際的な連携はかなり画期的な動きだと思います。他にも、スペインの左翼政党ポデモスを率いるパブロ・イグレシアス、フランスのジャン=リュック・メランションなど、「反緊縮」の提唱者が続々と台頭しています。