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時代が一周してトップランナーになった「レフト3.0」

――「労働者階級」重視なら、レフト1.0への回帰なのでしょうか?

松尾 コービンもサンダースもメランションも、世代的には1.0で、2.0に染まらずに昔通りのことをガチガチに言い続けていたら、90年代は馬鹿扱いされていたのが、いつの間にか時代が一周してトップランナーになった(笑)。財政出動などの「大きな政府」志向は1.0への回帰にも見えます。ただ、2.0が切り開いたものはきちんと踏まえていて、たとえばコービンは鉄道の国営化も、「昔みたいなトップダウンの運営ではなく、利用者と従業員が共同運営するものを目指している」「マイノリティも含んだ多様なコミュニティが労働者階級の戦いを支えるんだ」みたいな言い方で、多様性の共生や支え合いを重視しているんです。スペインのポデモスもドイツの左翼党も、特定の思想で動員される組織ではなく、「プラットフォーム型」とも言える、多様な潮流の連合体になっているのは特筆すべきことです。かつて批判されたマイノリティやジェンダーの問題を統合しつつ、高い次元で「階級」や「経済」を捉え直していくのがレフト3.0です。

 サンダースは自伝の中で、「人種や性や同性愛への偏見は、すべての人がまともな給料の仕事を持ってこそなくすことができる」と書いていますが、これがまさにレフト3.0の立場です。

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©末永裕樹/文藝春秋

なぜ「薔薇マーク」キャンペーンなのか

――今回、「薔薇マーク」キャンペーンを立ち上げたのは、日本でもレフト3.0のビジョンを根付かせたいという思いからなのでしょうか。井上智洋さん、森永卓郎さん、ブレイディみかこさんら多くの識者が呼びかけ人として名を連ねていますね。

©末永裕樹/文藝春秋

松尾 その通りです。そもそもは、選挙にさいして私たち有権者にあまりにも選択肢がないという、ここ数年の状況に対する憂慮がこの運動の出発点です。安倍政権の進める改憲、安保法制、特定秘密保護法、共謀罪の強行採決などに、世論の反対は非常に多いのにもかかわらず、自民党は選挙で圧勝し続け、内閣支持率も高い状態が続いてきました。それは改憲に執念を持つ安倍政権が、長いあいだ不況に痛めつけられた国民の望みに焦点を当てた経済政策を取る作戦を続けてきたからに他なりません。こういうと、「アベノミクス礼賛者」と言われてずいぶん叩かれてきましたが(笑)、これは2012年当時、安倍さんが総裁選に出た当初から、景気政策の一点において、この体制が国民的支持を得るだろうと私はずっと警鐘を鳴らしてきました。

狙いは候補者の可視化

 現在の景気はアベノミクスがうまくやったというよりは、民主党政権時代まで続いていた不況からちょっとだけ浮上したに過ぎません。でもそこに希望を感じて、強権的な政治体制は支持していなくても経済的な期待感から投票している層も多い。そこで、もうひとつの選択肢として、政治的にはリベラルだけど経済重視――人々の暮らしの声に耳を傾け、社会保障・医療・介護に積極的に支出をすることで雇用を拡大し、経済の底上げを図る、そういうスタンスの候補者の方々を可視化したいと思いました。薔薇マークは労働者の尊厳を表すシンボルであると同時に、「(お金を)ばら撒く」ともかけています。