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国内の景気がよくなれば財政赤字は解消

――ということは、不景気のときにその政府の部分だけを見て、家計の財布のごとく「赤字だ、赤字だ」と騒ぎ立てるのはナンセンスということですか?

松尾 その通りです。誰かが貸すと誰かが借りている。だから、高度経済成長期というのは、政府の財政は黒字だった。それが終われば財政赤字になったし、その途中のバブル期には設備投資が増えて、民間部門が借入超過になり、財政は黒字になった。だから、長期不況の時代に財政赤字をたくさん出すのは当然なわけです。先のスウェーデンの例のように、国内の景気がよくなれば民間の貯蓄超過が解消され、当然財政赤字が解消されていく。

 だから、政府の支出の部分だけを見て、「借金1000兆円の日本は破産寸前だ。早急に消費増税で財政規律の立て直しを行わなければギリシャのような破綻国家になる」と恫喝するような言説には、警戒してかかる必要があります。

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©末永裕樹/文藝春秋

IMFの緊縮政策はグローバル企業にとって巨額のビジネスチャンス

――欧米の反緊縮の潮流は、経済危機に陥った国々にIMF(国際通貨基金)が厳しい緊縮政策を強いてきた――それこそギリシャを破綻に追い込んだようなグローバリズムの圧力に対する強い危機感、反発もあるのでしょうか。

松尾 当然そうだと思います。経済危機に陥った国を緊縮で締め上げて、福祉や医療やさまざまな公共インフラが開放されれば、グローバル企業にとって巨額のビジネスチャンスになります。そこで焼け太った人たちがたくさんいる。さらに言えば、IMFは新古典派の主流派の経済学をバックボーンにしていますが、推進派のドイツのメルケル首相らがどの程度理解してやっていたかは疑問です。むしろ、経済学を超えた政治的思惑で必要以上にギリシャを追い込んだ節もあります。だからこそ対抗軸としての各国で連携したProgressive Internationalのような国際組織は今後重要な意味を持ってくるでしょうし、日本でもそれに呼応する勢力があってよいと思います。

©iStock.com

街のラーメン屋が儲かるような、生活レベルでの経済の活性化を

――これからの日本に一番必要な経済政策は何でしょうか。

松尾 まず貧困世代が貧困世代を生むような負の再生産を止めること。そのための教育・福祉への積極的な財政支出を惜しむべきではありません。世の中には、やはり新自由主義や長期不況で痛めつけられた人たちがたくさんいて、とりわけロスジェネ世代は今のままでは年齢的にも正社員になれないままフリーターで終わりそうな人も多い。この層は、政府が「構造改革」という戦争を起こしたせいで生まれた、いわば戦傷者みたいなものです。だから国の責任として彼らの生活、老後を守るべきだと思います。

 超高齢化社会で介護業界の人材不足は深刻化していますし、現場の賃金をもっと上げることも必要でしょう。やるべきことは山積していますが、まずは普通の庶民がまっとうに生きていけるように生活を保障する。そのための支出は経済の足を引っ張るどころか、必ず世の中の景気を底上げすることになるんです。街のラーメン屋が儲かるような、生活レベルでの経済の活性化こそいま一番必要とされていることであって、そのためのお金の使い方を国民は政治に問うべきなのです。人々が「経済」を自分たちの生活のために取り戻すこと――それが「レフト3.0」の目指す未来であり、デモクラシーを担保する土台になると私は考えています。

松尾匡(まつお・ただす)
1964年石川県生まれ。立命館大学経済学部教授。専門は理論経済学。著書に『ケインズの逆襲、ハイエクの慧眼』『不況は人災です!』『この経済政策が民主主義を救う』、共著に『これからのマルクス経済学入門』『そろそろ左派は〈経済〉を語ろう レフト3.0の政治経済学』などがある。
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