僕にしか見せない顔が嬉しくて、僕も司には何でも話せるようになっていった。クラスに友達がいない事や、それがどうでもいい事も司には話すことが出来た。
司も、転校してきたばかりで、みんなに嫌われないようにチャラケたりしてきたけれど、本当は少し疲れている事などを話してくれた。初めて信頼のできる、心を開ける男友達ができたと思えて、嬉しかった。
「七崎は女の人になりたいの?」
ある日の帰り道、まじめな顔つきで司が言った。
「どうしてみんなにオカマって言われてるの? 七崎は女の人になりたいの?」
僕が「オカマ」と呼ばれてしまっていることを、転校生の司にはまだ知られたくなかったし、「オカマ」という言葉に一瞬、ギョっとしたものの、僕をまっすぐ見つめる司の瞳は、他の生徒のように僕をからかうものではなく、大人たちのように僕を哀れむものでもなかった。ただ、僕の中の隠しておきたい部分まで、覗(のぞ)き込まれてしまっているような、司のまっすぐな眼差しがとても痛かった。
「違うよ。女の人になりたくないよ。男で良かったって、思ってる」
「それじゃあ、七崎は、俺とおなじ、普通の男ってことだよね?」
「うん……そうだと思うんだけど、オカマって言われちゃうんだよね……」
「喋り方じゃないかな。だって七崎、すぐ『きゃーー』とか言うじゃん? そういうので『オカマ』って言われちゃうのかもしれないね」
司は僕を気にかけてこんな話をしてくれたのだと思った。司の優しさが嬉しかった。
「男で良かったって思っている」というのも嘘ではなかった。少し前までは「女に生まれていれば、友達もできたし、そのほうが良かったのに」と思っていたが、「僕が男だから、こうして司と仲良くなれたんだ」と、このとき感じていたからだ。
(#5「脇毛の恋」は2月28日(木)更新予定)
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写真=平松市聖/文藝春秋