大人気コミックを実写化した映画『ねことじいちゃん』を見て、猫がこんなに演技ができるとは、と驚いた。だが当然と言えば当然だ。監督は、世界的な動物写真家であり、猫写真家としても大人気の岩合光昭さん。とはいえ、フィクション映画を手がけるのは、監督にとっても初体験。
「オファーを受けた際は、さすがに即答できませんでした。でも原作の舞台となった愛知県の島々、なかでも佐久島には撮影で何度か行ったことがあり、そこで出会った猫や人たちを思い出すうち、島の黒壁集落を、猫とじいちゃんが散歩する場面がふっと思い浮かんだ。なんだ、もうやる気になってるじゃないかとハッとしましたね」
脚本には、監督の意向で、人間のドラマと並行して猫のドラマも多く加わった。猫に演技をさせる秘訣を尋ねると、猫を知り尽くした人ならではの答えが返ってきた。
「命令をしない。ひたすら褒めてお願いをする。あとは、猫を観察していると、こっちに向かって歩きたいんだな、と猫の動きが何となくわかってくる。その動きに、カメラや照明の位置、キャストの動きを合わせていくんです」
何度も同じ演技はしてくれないうえに、時に思いがけないアドリブを繰り出す猫たち。そのお相手をする、人間の俳優たちの苦労もうかがえる。
「あるシーンで、猫たちが突然喧嘩を始めちゃったんです。それを見た小林薫さんがとっさに『ほらほら、喧嘩なんかすんじゃねえ』と役である巌さんとして言ってくれて、脚本にはないシーンが見事にできあがりました。やっぱり俳優さんってすごいですよ」