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麹町中学校の校長が「宿題」「担任制」「中間・期末テスト」を廃止した意外な理由

尾木直樹が『学校の「当たり前」をやめた。』(工藤勇一 著)を読む

2019/02/25
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放任ではなく、責任を持って一人ひとりと向き合う

 著者は、「目的と手段を見直し、学校をリ・デザインする」のだという。つまり、子どもたちが「社会の中でよりよく生きていけるようにする」という学校の本来の目的に立ち返り、これまでの慣例を徹底的に見直す。

 宿題と定期試験は学力定着の「手段」にすぎないのに、それ自体が「目的化」されてしまっているから廃止。代わりに単元が終わるごとに小テストを実施し、合格点に達しない生徒は再チャレンジさせる。放任するのではなく、責任を持って一人ひとりの学力保障を図るのだ。固定担任制の廃止も同じ発想。生徒は担任とウマが合わなくても学年の中なら気の合う教員もいるはず。教員側も、学年全員体制で生徒に向き合えば盤石。各教員の得意も生かせる。

 生徒指導も、生徒を機械的に管理するためにはやらない。例えば服装や頭髪の乱れなどの行動の変化が出てきたら「なぜそうするのか」、より深く生徒の心を知るキッカケにしていく。生徒理解を一つずつ積み重ね、「本当の指導」に発展させていくのだ。さらに、学校づくりには生徒を主体に据える。運動会などの行事といった「当たり前」の見直しも生徒主体で行う。

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 学校の「当たり前」の多くは、実はよくよく見つめ直せば、これまでの「慣例」に縛られているに過ぎない。そして、変革を阻むのは、「法律」「制度」よりも「人」だと著者は断じる。この「慣例」という学校だけに通用する「常識」に、どれだけ子どもたち、保護者たち、教員たちが縛られ、苦しんでいることか。

 大胆な「改革」とは、実は学校現場を「教育の原点」と照らし合わせ、小さな改善を積み重ねていくことにほかならない。いくつもの小さな改善が大きな変化を生み、いつか教育の本質的な改革が進む――。「学校が変われば、社会は必ず変わります」という著者の言葉は、現実味を帯びて響く。

くどうゆういち/1960年、山形県生まれ。東京理科大学理学部応用数学科卒。山形県公立中教員、東京都公立中教員などを経て、2014年から千代田区立麹町中学校校長。本書が初の著作。

おぎなおき/1947年、滋賀県生まれ。教育評論家、法政大学特任教授。著書に、『尾木ママの孫に愛される方法』など多数。

麹町中学校の校長が「宿題」「担任制」「中間・期末テスト」を廃止した意外な理由

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