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「新宝島」を音ハメしたくなる理由を、感性工学の研究者が解説してみた

黒澤明、庵野秀明も使った「音と画の対位法」

2019/02/24

大きな動きのダンスでは、キレッキレ感がマックスに

 しかし、「新宝島」を用いた音ハメ動画の多くには、体全体を使った、大きな動きのダンスや運動が用いられている。このような派手な動きに対しては、このテンポはものすごく速いという印象を与え、動きのキレッキレ感が半端なく感じられる。逆に、これ以上速いテンポだと、人は大きな動きのダンスや運動を行うことができない。そう、このテンポはいいところをついているのだ。

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 さらに「新宝島」では、キーボードが奏でる固い音色の小気味よいリフレインが、ビートを刻む瞬間を強調している。このようにビートを刻む瞬間がわかりやすい楽曲だと、これにダンスの動きのタイミングを合わせることで、構造的調和を感じられやすい動画になるのだ。以上のように、「新宝島」のテンポとキーボードの音色には、大きな動きのダンスや運動の映像と合わせたときに、構造的調和を最大にし、キレッキレ感を演出する効果があったのだ。

人間の感情は二次元モデルで表すことができる

 次に「新宝島」を用いた音ハメ動画の意味的調和についても見ていくが、その前に、まず人間の感情について考えたい。

 少し固い話になるが、一般に人間の感情は、最も単純には「快い-不快」と「覚醒-沈静」という2次元のモデルで表すことができることを、ラッセルという人が実験によって示している[1]。覚醒度とは、要は興奮度のことだ。

 図1の2次元感情平面はこのモデルを示している。快く覚醒すると「喜び」、快く沈静すると「優しさ」や「いつくしみ」、不快で沈静だと「悲しみ」、不快で興奮だと「怒り」、もっと不快で興奮すると「恐怖」になる。このように、この2次元モデルで喜怒哀楽を表すことができる。

図1 感情の2次元モデル。Russell(1980)を基に作成

 意味的調和とは映像が持つ感情的性質と音楽が持つ感情的性質が合致することで生じる調和感のことをいう。言い換えれば、映像と音楽の感情的性質が、図1の2次元感情平面の中で同じような位置にあるとき、調和感が生まれるということだ。映画やアニメ、TVゲームなど、ほとんどの映像作品で、楽しいシーンには楽しい音楽、悲しいシーンには悲しい音楽がついているのは、この意味的調和を図っているのだ。

バイオハザード4の映像にヒーリング音楽を合わせてみると……

 それでは、映像と音楽の意味的調和を崩すとどのようなことが起こるのだろうか?

 われわれの研究室では、TVゲーム、バイオハザード4の中で、犬型ゾンビであるケルベロスと主人公が暗い夜道で戦うシーンの映像を、様々な音楽と組み合わせる実験を行った。その結果、重苦しい印象の音楽をつけると、犬の動きが速くなった印象、そして夜道がより暗くなった印象になり、恐怖感が増大した。

 一方、ヒーリング音楽のような明るく穏やかな音楽をつけると、自分がゾンビと戦っている感じがなくなり、「人間ってやつはこうやって戦って、死んでいくんだな~」と、神様のような立場から眺めている感じになり、全然怖くなくなったのだ[2]。これは、映像と音楽との意味的調和が崩れることによって起こったのだと考えられる。