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「持っている服を全部捨てろ」

――それで今の事務所に入ったんですね。

山口 社長にまず言われたのは「持っている服を全部捨てろ」。当時、私は服が大好きで。ブランドだったり、デザインだったり、派手な色だったり、自己表現を服に頼ってたところがあったんです。でも「女優として生きるなら、人間を演じなきゃいけない。中身が育ってない限り、どんな人間も演じられない」って。服をシンプルにして、自分を探せ、育てろと言われて。それで社長がプレゼントしてくださったのが、何でもないデニムと白いTシャツとスニーカーだったり、コンサバなパンプスだったり。

 でも、私の中に何もないから、着こなせないんですよね。そんなシンプルな服。どこにでもあるような服じゃ、個性が出せない。というか、個性がない。つまらない。だから、そこからあわてて自分探しを始めたという感じで。本を読んで、映画を観て、自分なりにドラマを研究したりして……いまだに自分が何者かなんて全然わからないんですけど。でも、それがなかったら、私はたぶん、今でも役を演じようとして、うわべだけで取り繕っていただろうと思います。

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――そうして演技と向き合って、蜷川幸雄さんの舞台『エレクトラ』に挑みます。

山口 NODA・MAPの直後ですね。たまたま蜷川さんが『オイル』を観てくださっていて。ちょうど大竹しのぶさんの妹役を探しているところだったから、「おまえ、やれよ」って言われて(笑)。

――そういう口調なんですね。

山口 そうですね。「紗弥加、やれよ」って。「じゃあ、やります」って、芝居の楽しさに気付いたばかりだったことも手伝って、なんとなく引き受けちゃったんですけど。いやあ、もう、稽古が始まったら後悔しかなかったですよね。私はとんでもないところに足を踏み入れてしまったって。自分の無力さを目の当たりにして、恥ずかしくて、情けなくて。これで私は女優だと、今までよくも言い切ってきたなと。