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25年目で初主演 山口紗弥加「蜷川幸雄さんの『女優やめんなよ』が転機だった」

山口紗弥加さんインタビュー#2

note

「才能はいつ花開くか分からないから、おまえ、やめんなよ」

――蜷川さんが怖いのではなく、自分に向き合うタイミングだった。

山口 才能のなさに悲しくなっちゃって、恥ずかしくなっちゃうんですよね。この程度でお金をいただいていたのかとか、観客の皆さんにも申し訳ないなという思いだったりとか。本当にいつ逃げだそうかということを考えながら、毎日、稽古場のトイレで泣いてたんです。

 そしたら、ある日、蜷川さんがトイレの前にいて。「泣いてたのか」っておっしゃるから、見ればわかるでしょと思って、悔しくて、何も言わずに素通りしちゃったんです。そんな失礼な私に対して「おまえ、やめんなよ」って背中に声をかけてくださった。でも、やめんなっていうか、あなたのせいで私はいま、やめざるを得ないんだよって(笑)。

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 あなたがもうちょっと甘やかしていてくれたら、この現実を知らずに、もうちょっと幸せでいられたかもしれないのにって。ここまでくると完全に被害妄想ですよね。すべては自分ができないからそうなっているだけなのに、蜷川さんのせいにしちゃってて。

 

――なるほど。

山口 それなのに、「やめんなよ」って。才能っていつ花開くかわからないから。その才能がおまえの中にあるかもまだわからないけど、もしあるとすれば、5年後、10年後、花開くかもしれない。もしかしたら死ぬまで花開かないかもしれないけどさ、明日、花開くかもしれないんだよ。その瞬間は突然訪れるんだよ。だから油断するな、って。辞めるな、続けろって。おまえが頑張ったことは絶対裏切らないから、とにかく続けろ、と。

 それで、なんとか這い上がろうと、あがいて、あがいて、舞台の初日が終わったら、蜷川さんに初めて「初日出たな、よかったぞ」って……。

 

――どういう気持ちになるんですか。ずっと厳しいことを言われてきて。

山口 ああ、認めてもらえたんだ、という喜びはありますよね。誰かしらに認めてもらいたい、承認欲求は常にどこかにありますから。ただ、たった一度蜷川さんに認められても、舞台は日々変わっていくもので。1つできても、また1つできないことが出てくるんです。毎日毎日悔しくて、カーテンコールで笑顔になれない。蜷川さんからの最後のダメ出しは「カーテンコール笑えよ、おまえ!」でした(笑)。

――それが原体験ですか。そこから16年続けられてきました。

山口 ひとつの大きな力、原動力にはなってますよね。ただ、それだけ衝撃的な体験をしていながらも、日々を重ねていく中でその記憶はだんだんと片隅に追いやられてしまうんですよね。何度も何度も挫けそうになったり、心が折れそうになったりする中で、もうひとつ大きな支えになっていたのが、やはり社長の力強い言葉だったりして。本当に、その時々で大切な、有難いご縁をいただいているなと。蜷川さんには、厳しいご指導をありがとうございましたと、感謝しかありませんよね。

#3に続く)
写真=榎本麻美/文藝春秋


#1 女優・山口紗弥加が明かす「『連ドラ60本も主演なし』の私を支えた社長のメール」
http://bunshun.jp/articles/-/10848
#3  “振り切った女優”山口紗弥加「佐野史郎さんは私の中に“冬彦”を見たのかも……」
http://bunshun.jp/articles/-/10850

INFORMATION

オトナの土ドラ『絶対正義』

毎週土曜日 23時40分~24時35分
(東海テレビ・フジテレビ系)

「私、間違ったこと言ってる?」正義のモンスター・範子が周囲の人々を翻弄し、運命を狂わせていく恐怖を描く、衝撃の心理サスペンス。

出演 山口紗弥加 美村里江 片瀬那奈 桜井ユキ 田中みな実 ほか

25年目で初主演 山口紗弥加「蜷川幸雄さんの『女優やめんなよ』が転機だった」

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