猫だけではなく、人にも優しい
「獣医さんのご厚意で、アドバイスをもらっています。ごはんとか、時には点滴とかも。おさむとミニさむと2匹の面倒を見てもらっています。ある日、ぽつんと、3匹目の猫がうろつき始めたんです。それで獣医さんに、3匹目が来たんですけどって言ったら、ちょっと表情が変わった気がして(笑)」
しかし、3匹目らしい白い猫は無頼派かもしれない。さっき私が見かけた猫に似ているようだ。駅から徒歩15分ほどの那珂湊おさかな市場付近の路地にいた。きっと新鮮な魚を食べているのだろう。首輪はなかったけれど、いい毛艶をしていた。
ひたちなかの人々は猫だけではなく、人にも優しい。吉田社長が10年間も勤続できた背景に、移住者に優しい土地柄もありそうだ。日立製作所の社員が勝田に転勤し、居心地の良さに定年後も定住するという例は実際に多いという。前市長の本間源基氏も新潟県出身で、東大卒業後に茨城県庁に就職した人だ。
「日立製作所に各県の県人会があるんです。富山県人会のみなさんに、定年退職して富山へ帰りたいかと聞くと、いやあ、冬の雪はスゴいわ、東京には3時間もかかるわで、ここに住んだほうがいいんじゃないか、って話になるんです。その気持ちもよくわかります」
地域の小さな要望をひとつずつ叶えていく
吉田千秋氏は富山県の第三セクター鉄道、万葉線で経営改善に尽力。その手法を活かせると信じ、ひたちなか海浜鉄道が公募した社長に就任。当時は第三セクター鉄道の公募社長が次々に誕生して話題になった。吉田氏は在籍最長記録更新中だ。この10年の経営改革は地道で、しかし確実だった。
「応援団(おらが湊鐵道応援団)との連携が大きいです。応援団が地元に根を張って活動している。応援団の話を聞けば、地元の鉄道への需要がハッキリわかります」
おらが湊鐵道応援団は、「どうも湊線の廃止が検討されるらしい」とひたちなか市が沿線自治体に伝えたときに立ち上げられた。自治会連合会として、商工会議所などと連携した組織。彼らの運動が鉄道存続の流れを作り、現在も応援してくれている。ひたちなか海浜鉄道の乗車証明書を見せると特典のある店が多い。ぶらりと立ち寄った店でも「鉄道のお客さんなの?」と話しかけてくれる。乗り鉄にとって居心地の良い街だ。