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連載この鉄道がすごい

奇跡のローカル線「ひたちなか海浜鉄道」社長が語る「猫の相棒」と「延伸計画の勝算」

概算費用は約78億円。でも、充分商売として成り立つ計算です

2019/02/24

猫だけではなく、人にも優しい

「獣医さんのご厚意で、アドバイスをもらっています。ごはんとか、時には点滴とかも。おさむとミニさむと2匹の面倒を見てもらっています。ある日、ぽつんと、3匹目の猫がうろつき始めたんです。それで獣医さんに、3匹目が来たんですけどって言ったら、ちょっと表情が変わった気がして(笑)」

 しかし、3匹目らしい白い猫は無頼派かもしれない。さっき私が見かけた猫に似ているようだ。駅から徒歩15分ほどの那珂湊おさかな市場付近の路地にいた。きっと新鮮な魚を食べているのだろう。首輪はなかったけれど、いい毛艶をしていた。

土日になると観光客と地元の買い物客でにぎわう那珂湊おさかな市場

 ひたちなかの人々は猫だけではなく、人にも優しい。吉田社長が10年間も勤続できた背景に、移住者に優しい土地柄もありそうだ。日立製作所の社員が勝田に転勤し、居心地の良さに定年後も定住するという例は実際に多いという。前市長の本間源基氏も新潟県出身で、東大卒業後に茨城県庁に就職した人だ。

「日立製作所に各県の県人会があるんです。富山県人会のみなさんに、定年退職して富山へ帰りたいかと聞くと、いやあ、冬の雪はスゴいわ、東京には3時間もかかるわで、ここに住んだほうがいいんじゃないか、って話になるんです。その気持ちもよくわかります」

各駅の駅名表示板はオリジナルデザイン。ひたちなか海浜鉄道本社もある那珂湊駅の場合、「湊」の字に「猫」が潜んでいる

地域の小さな要望をひとつずつ叶えていく

 吉田千秋氏は富山県の第三セクター鉄道、万葉線で経営改善に尽力。その手法を活かせると信じ、ひたちなか海浜鉄道が公募した社長に就任。当時は第三セクター鉄道の公募社長が次々に誕生して話題になった。吉田氏は在籍最長記録更新中だ。この10年の経営改革は地道で、しかし確実だった。

「応援団(おらが湊鐵道応援団)との連携が大きいです。応援団が地元に根を張って活動している。応援団の話を聞けば、地元の鉄道への需要がハッキリわかります」

海の近くを走る路線だが、意外と車窓から直接見られるスポットは少ない

 おらが湊鐵道応援団は、「どうも湊線の廃止が検討されるらしい」とひたちなか市が沿線自治体に伝えたときに立ち上げられた。自治会連合会として、商工会議所などと連携した組織。彼らの運動が鉄道存続の流れを作り、現在も応援してくれている。ひたちなか海浜鉄道の乗車証明書を見せると特典のある店が多い。ぶらりと立ち寄った店でも「鉄道のお客さんなの?」と話しかけてくれる。乗り鉄にとって居心地の良い街だ。