春のネモフィラ、秋のコキアが人気の国営ひたち海浜公園へ
そして、次のチャレンジが始まる。現在の終点、阿字ヶ浦駅から、国営ひたち海浜公園付近への延伸計画だ。国営ひたち海浜公園は春のネモフィラ、秋のコキアなどが人気で、インスタ映えスポットとして人気を集めている。また、2000年から始まった「ロック・イン・ジャパン・フェスティバル」の開催地としても有名だ。
「阿字ヶ浦駅から約3.1kmの延伸で、概算費用は約78億円です。ひたちなか市は2024年度までに運行開始したいと計画し、国と県に1/3ずつ持ってくれないかという話をしています。ただし、国に1/3といっても簡単にはハイと言ってくれないので、どうやって説得していくかですね。それと市民の皆さんに1/3の負担を理解していただかないと」
昨年11月、ひたちなか市長選が行われた。前市長の本間源基氏はひたちなか海浜鉄道の設立に関わり、その後も支援策を決定し、延伸計画も推進した。しかし本間氏は4期を務め任期満了で引退した。新市長の政策で方針は変わらなかったか。
「前市長が掲げた延伸方針は市民に伝わっています。新市長も継承する方針です。市議会の所信表明演説で何をおっしゃるかと聞いていましたが、延伸はちゃんとやりますと言い切ってくれました」
「商売として充分成り立つ計算なんですよ」
選挙戦は2名の候補が戦った。しかし、延伸計画は争点にならなかった。むしろ観光推進政策の1つに据えられていたようだ。
「78億をかけるというと、腰が引けちゃう人が多い。負担分の1/3でも26億円です。でも、ひたち海浜公園は年間200万人を動員する施設です。ほとんどはクルマや勝田駅から一直線の県道をバスなんですけど、200万人の1割が乗ってくれたら20万人です。当社の1日乗車券が現在900円、湊線応援券付きのデザインバージョンで1000円ですから、2億円の増収。13年くらいでモトが取れる。商売として充分成り立つ計算なんですよ」
懸念は車両数だ。延伸して運行間隔を維持しようとすると、車両数が足りない。あるいは急行運転を実施し、折り返し所要時間を短縮して解決するとしても、設備投資が必要。
「先日、東京で電車に乗ろうとしたら、短い10両編成で参りますって案内放送が流れたんですけど、ウチは使える車両をぜんぶつないでも10両にならない(笑)。線路の延伸工事は78億でも、運行準備まで考えると足りません。しかし、ひたち海浜公園を鉄道で訪れる人のほとんどが那珂湊駅で途中下車して、おさかな市場で買い物をされるんですね。その経済効果を考えれば、有効な投資だと思います」
単年度黒字だけでは安心できない。これからも増収の努力が求められる。もはや猫にさえ椅子を奪われる暇はないかも。
写真=杉山秀樹/文藝春秋
※「ひたちなか海浜鉄道」の旅の模様は、現在発売中の『文藝春秋』3月号のカラー連載「乗り鉄うまい旅」にて、計5ページにわたって掲載しています。