『「捨てる!」技術』は130万人を動かした
さて本書は、ひとり暮らしのための本だ。衣食住、お金、ご近所づきあい、安全まで網羅した注意点が事細かに綴られる。あとがきで先生の二十歳のご子息曰く「自分ができていないポイントについて読んでいる時には、チクチクと指摘されているような気持ちになりました(笑)。」全く同感です。チクチク辛い……。
しかし、このチクチクこそが辰巳先生の神髄なのではと今思う。
『「捨てる!」技術』では、まるで読者の家に入り込み隣に立って1カ所1カ所指さすかのようにあれもこれも捨てられますとチクチク指摘し、130万人を動かした。あとがきには「あえて具体的な社会事象や統計資料をとりあげなかったが、筆者なりの裏づけがあって、“捨てるための技術”を提案したつもりだ。」とある。
パルコ出版発行のマーケティング雑誌「月刊アクロス」の記者も経験した辰巳先生。未来を見通し、しかし指示はどこまでも具体的に実践的に。(余談だが私は昔、パルコの子会社「株式会社アクロス」に内定をいただいたが、やはり絵の勉強をしておこうと思い直して内定を辞退した。)
このひとり暮らし本も。指示はひたすら実践的だが最終章に、生活とは「環境の変化を飲み込み、または変化を緩和して毎日をそつなく生きていくもの」とある。私が内定をいただいた会社は2003年に解散。先のことはわからない。
本書は、いつひとり暮らしになるかわからない私たちみんなへの置き土産だ。
たつみなぎさ/1965年、福井県出身。2000年刊『「捨てる!」技術』がミリオンセラーとなる。その後「家事塾」等の活動を通し、暮らしこそが自立の基本と訴え続けた。2018年6月急逝。
いけだきょうこ/1969年、愛媛県出身。漫画家。『片づけられない女のためのこんどこそ!片づける技術』『人生モグラたたき!』他。