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皇居と赤坂御用地のタヌキが「交流」を持っている?

――タヌキの山地における行動圏面積と比べると、皇居の面積は狭いそうですが、どうして外に出なかったのでしょう。

倉持 いわば“離れ小島”のような環境とも言える皇居ですが、複数のタヌキが生活を維持できる餌資源が長期にわたり安定的に供給されてきたという食べ物の面が一つ。それから、タヌキの縄張り意識は非常にゆるいんですよ。他者に寛容というか、自分の行動圏に入ってくる者がいても、平気な顔をしているらしい。皇居のタヌキを観察していると、排水溝などに住まっていたり、じっとしてしばらく休んでいる様子が見られたそうです。人工的な作り物を臨機応変に利用できるのも、タヌキの特徴なんですよね。

 

――皇太子ご一家や秋篠宮ご一家がお住まいの赤坂御用地内にも、タヌキはいるんでしょうか。

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倉持 確認されています。また、興味深いことにミトコンドリアDNAの解析から、皇居のタヌキが、日本で一般的に見られるタヌキとは異なる未知のハプロタイプ(遺伝的構成)を持つことが分かったのです。皇居のタヌキ(23頭)と主に東日本のタヌキ(45頭)、それから赤坂御用地のタヌキ(7頭)の遺伝的な関係を調べたところ、皇居のタヌキ1頭と赤坂御用地の6頭は、もっとも広く日本各地にみられたA型のハプロタイプでした。一方、皇居のタヌキの残り22頭はB型で、この型はA型に似ているものの皇居以外では見つかりませんでした。

 さらにこの結果は、皇居のタヌキと、約1キロ離れていてオフィス街で隔てられた赤坂御用地のタヌキとが、何らかの交流を持っているかもしれないことも示しています。 

皇居の地図、記録用紙、コンパス

――皇居と赤坂で、タヌキの行き来があるかもしれないということですか?

倉持 行き来かどうかは分かりませんが、交流の可能性があるということです。皇居のタヌキと赤坂御用地のタヌキのうち、1頭だけ一致するハプロタイプが見つかっているという理由からですね。

――陛下のタヌキ研究は、これにて一段落ということなのでしょうか。

倉持 全く存じ上げませんが、天皇陛下は退位された後、最終的なお住まいとして、赤坂御用地の東宮御所に戻られると伺っています。そう考えますと、赤坂御用地内の動植物についてさらなるご研究を進められるという可能性は、あるかもしれませんね。

東京23区ではほぼ姿を消したと思われていたトンボ「アオヤンマ」などの標本も展示している
企画展「天皇陛下の御研究と皇居の生きものたち」は、上野・国立科学博物館で3月31日まで開催中

写真=末永裕樹/文藝春秋