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天皇陛下の知られざるご研究――なぜタヌキたちは、皇居の中で暮らすのか

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都市タヌキでありながら、人間の活動産物に依存しない

――季節ごとの木の実や、モグラの毛なんかも出てきたそうですね。

倉持 「雑食性」というのはタヌキの大きな特徴です。実りの多い時期は木の実を食べ、時には動物質である昆虫やモグラなどを食べます。ハンティングもできる。そのため人里にも降りてこられるのです。都市部のタヌキはだいたい残飯や生ごみを食べて生きているものですが、皇居のタヌキからはそういうものが一切出てきませんでした。都市タヌキでありながら、人間の活動産物には一切依存しないで、皇居の中の食べ物だけで生きていた。

 これは私の想像なのですが、早い段階から陛下は「皇居のタヌキは皇居の中だけで暮らし、おなかいっぱい食べているのではないか」という風に仮説を立てられていたのではないかと思うんです。

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皇居に生息するタヌキ

――皇居内で、タヌキを見かけたことはありますか?

倉持 それがないんですよ。

――日中はなかなか出てこないのでしょうか。

倉持 タヌキは夜行性なので、とてもよく撮れている写真があって驚いたほどです。実際に調査にあたった研究者も白昼はあまり見ていないと思います。皇居のタヌキの行動範囲を明らかにする過程では、タヌキをつかまえることに苦心したようですね。タヌキが活動するのは夜間ですので、3人チームとなって、日暮れくらいから始めて、明け方までアンテナを持って走り回るのです。トランシーバーで連絡をとりあいながら、「何番のタヌキを見つけました」と。地道なやり方で、タヌキの正確な位置情報を特定していきました。

首輪型電波発信機。首輪のようにタヌキに付け、布の部分がやがて劣化して自然に脱落するように工夫されている
トラップ。タヌキを捕らえるための罠で、ソフトキャッチ(衝撃を和らげるゴムパッド)が付いた法律で使用が認められているもの