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「露営の歌」、毎日新聞にスルーされる

 戦時下の新聞各社は、自社の宣伝も兼ねて、軍歌の懸賞公募を盛んに行なっていた。そのなかでも、毎日新聞はトップランナーだった。

 それなのに、どうしたことだろう。今日の毎日新聞は、今回の「エール」制作発表を受けて「朝ドラ『エール』のモデル、古関裕而って誰?」という記事を配信したにもかかわらず、「露営の歌」についてまったく言及していないのだ。遺憾といわざるをえない。

©iStock.com

 それはともかく、軍歌史に古関の名前は燦然と輝いている。「愛国の花」「海の進軍」「英国東洋艦隊潰滅」「ラバウル海軍航空隊」「嗚呼神風特別攻撃隊」「比島決戦の歌」などなど――。あの山田耕筰でさえ、ここまでヒット作に恵まれなかった。古関こそは、まさに軍歌作曲の名手であり、戦時下最大のヒットメーカーだったのである。

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軍歌をどう扱うのかは大きな見どころ

 これほど豊富な軍歌の数々を、「エール」はどのように扱うのだろうか。

 古関は自伝のなかで、「露営の歌」などは軍歌ではなく戦時歌謡だったと弁解している。「大衆の心から生まれた曲」=戦時歌謡は、「軍の命令による軍歌」とは違った、というのである。

 「エール」では、この論法を使って、「古関は平時も戦時も音楽で大衆の心を慰め、励ました」などとごまかすのかもしれない。以前述べたとおり、「戦時歌謡」云々の弁解は無理があるのだが――。

 いずれにせよ、軍歌の扱いは大きな見どころのひとつだ。

1964年、東京オリンピック開会式 ©文藝春秋

「エール」が放送される2020年には、東京五輪が開かれる。復興五輪ともいわれるこの大会に、福島出身で「オリンピックマーチ」の作曲者を持ってくるとは、なるほどよく考えられている。

 とはいえ、国策イベントに寄り添うだけでは、かつての軍歌とたいして変わらない。ぜひとも、日中戦争や太平洋戦争への「エール」についても、しっかり描写してほしいところである。そのほうが内容も多面的になると思うのだが、いかがだろうか。