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又吉直樹が東京に出てきた理由、NYに行かない理由

ピース又吉直樹・上京インタビュー#1

2019/03/23

source : 文學界

genre : ライフ, 読書, ライフスタイル

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何かを成し遂げた人は必ず家を出ている

――もちろん「芸人になる」という昔からの目標があったとはいえ、そんなにスパッと別の道を目指すことができたのはなぜでしょう?

又吉 自分としては認めたくもないし、そんなふうに理解はしてないんですけど、やっぱり、負けたんじゃないですかね。小学校3年からサッカーをやってきて、「お笑いをやりたい」という気持ちがありながらも全力を尽くしてきたけど、勝てなかったんじゃないですかね。実際に全国大会には行けなかったですから。自分では今も「いや、別に負けたわけではない」と思ってますし、サッカーで負けたから芸人を目指したわけではないんですけど、仮に全国大会に出場して自分が最優秀選手に選ばれて、プロからオファーがあったときにどういう選択をしたかはわからないですね。

 

――でも、もしもサッカーを続けていたとしても、家を出ていたんでしょうね。

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又吉 そうかもしれないです。俳人の堀本裕樹さんに教えてもらった俳句に、「秋の雲立志伝みな家を捨つ」というのがあるんです。上田五千石という人の俳句なんですけど、何かを成し遂げた人の伝記を読むと、必ず家を出てるという。そうやって外に出ようとする感覚は、もともと備わっているような気がします。親を嫌いやと思ったことはないですけど、あの頃は離れたいと強烈に思ってました。

 サッカーの試合に出てるときも、親の姿が見えるのが嫌で、「僕の視界に入らんとこにいてくれ」と言うてたんです。親がいるところだと、自分が子供なんですよ。擦り傷を消毒されるだけでも「痛い!」と喚いてたんです。でも、うちの母親が試合を観にきたとき、「家ではあんなに痛がってるのに、他の父兄に消毒液塗られてるときは眉一つ動かさへんかったのを見てびっくりした」と言われて。母親がいなければ喧嘩もするし、試合の中でも闘争本能を最大限に発揮できる。でも、親がいたら子供の役割に引っ張られる。芸人になったとしても、人前で何かやって失敗して傷ついてるとき、近くに親がいて「そんな無理して芸人目指さんでもええんちゃう?」と言われると、その説得に負ける可能性がある。情けない話ですけど、だから家を出る必要があったんですよね。