なぜ今あのときのような選択をしないのか
――又吉さんが「ここではない場所を」と望んで実家を出たときは、移動するのに交通費が必要で、それをどう捻出するかってことが大きな問題だったわけですよね。でも、今の又吉さんは、そのときに比べると交通費を捻出することは苦ではなくなったと思いますけど、こことは別の場所に移動することにはまた別の難しさがありますね。
又吉 18歳のときの僕が、自分がいる状況をヌルく感じてしまって、刺激を求めて上京する――そうやって移動することで状況がむちゃくちゃ良くなる可能性もあるけど、むちゃくちゃ悪くなる危険性もありますよね。その賭けが功を奏したのか、表現する仕事に就けたということは、結果的には良い選択だったのかなと思うんです。じゃあ、なぜ今あのときのような選択をしないのかということですね。それを選んだのが綾部なんですけど、ネタを作ったり小説を書いたり、表現するのは僕のほうやから、ほんまは僕が行くべきやったんですよね、きっと。普通に考えたらそうなんですよ。
たとえばペテルブルクに住みながら創作に打ち込む。僕はきっと、向こうで狂いそうになると思うんですよ。「なんでいらんことをしてしまったんだ」と。いろんな問題がある中で、不安に苛まれながらも「作るしかない」という境地に何年かかけてたどり着いて、なにかを作り始めたら面白いものができるかもしれないですよね。でも、それをしないのは――何なんでしょうね。たぶん大前提としての「東京が自分の家になっている」という感覚が希薄なんでしょうね。まだここでは全然やっていけないと、自己評価では思ってるんだと思います。
(#2に続く)
写真=文藝春秋
INFORMATION
<本公演>
タイトル:「さよなら、絶景雑技団2019 本公演」
作・演出:又吉直樹
出演:又吉直樹、グランジ五明、しずる、ライス、サルゴリラ、囲碁将棋根建、ゆったり感中村、井下好井好井、パンサー向井、スパイク小川
日程:3/22(金)19:00開演
3/23(土)19:00開演
3/24(日)18:30開演
会場:日本橋・三越劇場
<派生ライブ>
タイトル:さよなら、絶景雑技団主宰「日本の表現者」
作・演出:又吉直樹
出演:又吉直樹、竹内健人、フルポン村上、サルゴリラ児玉、ライス関町
日程:3/23(土)15:00開演
3/24(日)14:30開演
会場:日本橋・三越劇場
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