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又吉直樹が東京に出てきた理由、NYに行かない理由

ピース又吉直樹・上京インタビュー#1

2019/03/23

source : 文學界

genre : ライフ, 読書, ライフスタイル

note

綾部がニューヨークを目指したのは自然なこと

――そうして上京されて、20年が経ちました。最初は誰ひとり知り合いがいなかった東京という場所も、今ではもうホームになりつつあるんじゃないかと思うんです。さきほどの「守られている場所の外に出る」というお話からすると、相方の綾部さんがより外側の世界を欲してニューヨークに行かれたのはしっくりくるんですけど、又吉さんは「日本の外に」という気持ちはないんですか?

 

又吉 難しいとこですね。47都道府県の中から東京を選んだのは、ランダムに選んだわけじゃなくて、「東京に面白い人が集まってそうだ」って理由に尽きるんですよね。そこがある程度地元みたいになったとして、「その外に」と言って綾部がニューヨークを目指したのはすごく自然なことやと思うんです。でも、綾部がニューヨークで大成功したとして、「さらにその外ってどこなんやろう?」と考えると――宇宙ってことでもないですよね。そうなってくると、外って感覚は何か別の方法で獲得せなあかんことになってくると思うんです。それはもしかしたら東京におりながらでもできるかもしれないなと思いながらも、やっぱり惹かれますよね。

 何に惹かれるかと言うと、上京したときの不安な、皆から疎外されているようなあの感覚を味わいたいということですね。なかなか寝られへんけど、夜中に連絡取れる人が誰もいなくて、明日も明後日も何の予定もなくて。そこから抜け出すためには、自分の表現を発表して、それが認められれば仕事が増えるし、認められなければ仕事が減る。今も基本的にはそのやりかたですけど、それを切実に感じる状況に行きたいってことですね。

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 綾部は「スターになりたい」と言ってますけど、もしかしたらそういう感覚があるのかもしれないです。だから、すごろくで考えると、綾部のほうが上がってますね。僕のすごろくは、マスが細かいんですよ。僕はネタを作る側ですけど、面白さなんて突き詰めても終わりがあるものじゃないんで、基本的にあがりようがないんです。でも、綾部のメインテーマは「有名になって脚光を浴びたい」なんで、それで言うともう何年か前にあがってるんですよ。だから次のステージを目指してニューヨークに行ったのはよくわかるんです。でも、僕の場合、もし英語で文章が書けるなら別ですけど、日本語で表現する限り、すぐに「世界に」って発想にはならないんですよね。