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「貧困をバネに成功した」事例をロールモデルにしないために

佐々木俊尚×吉川ばんび 対談 #2

note

パリの人が亡くなったら祈るのに……

 

吉川 要は「いかに共感を得られるか」。シングルマザーって聞くと「あぁ、大変だよね」ってみんな分かると思うんですよ。そういう人たちが周りにいて、苦労しているのを知っているから。身体障害者の方や杖をついているご老人だと「あ、助けなきゃ」っていうのも分かりやすくて。ただ「キモくて金のないおっさん」に関しては、そもそもみんなが理解をしようともしていないし、共感もできないという……。

佐々木 ちょっと前に「反共感論」という本を読んだんだけど、「共感でものを語ってはいけない」ということが書かれていて。分かりやすい例をあげれば、近年ヨーロッパではテロがたくさん起きていて、少し前に、パリで100人くらいが犠牲になりましたよね。

吉川 ありましたね。

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佐々木 そしたらみんながFacebookのアイコンをフランスの国旗に変えて、「パリのために祈ろう」って言い出した。そのとき「パリの人が亡くなったら祈るのに、同じ時期にシリアで何万人も亡くなっているのはどうでもいいのか」というか……。

吉川 私も同じことを思ってました。シリアの民間人の子どもを含めた何万人が亡くなっていて、世界ではたくさんの人が殺されているというケースは他にもあるのに、「何でパリのときだけ?」と。「自分たちが知っている美しい国がテロで甚大な被害を受けてしまった」というショックがあったんでしょうか。

 

佐々木 頭の中にイメージしていて、自分が思い描いている世界を壊される恐怖感が強いんじゃないかな。だからそれは、本当の共感とは違うんじゃないかって思います。例えば「美しい弱者」の問題について「共感する」と言っている人の頭の中には、マザーテレサみたいな存在がいて、それが誰かを救ってるというか、自分がマザーテレサ側にいるかのような気持ちになってる。だけど、マザーテレサの手の中に「キモくて金のないおっさん」がいる発想は多分まったくないんでしょうね。実際にマザーテレサがインドでやってたことは貧困対策の事業だったんだけど、「共感できる」と言いつつ、どこかに想像力の欠如があるんじゃないかと。

吉川 日本で生きている私たちにとってはここが自分の中心地なので、まったく環境が違うシリアのような国で起きていることは想像しにくいというのはありますよね。だから「日本と同じように栄えているパリがテロを受けた」というのは、とても分かりやすいんじゃないですか。