ジャーナリストの佐々木俊尚さんとライターの吉川ばんびさんは、ともに貧困家庭に育った。佐々木さんは高校時代に借金の連帯保証人になった親が夜逃げ。吉川さんは兄の家庭内暴力に苦しみ、母親は毎日のように「死にたい、死にたい」と言っている機能不全家庭だったという。
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佐々木俊尚 僕の場合は大学に行ったあと新聞社に正規雇用で入れたから、それで救われたところはあるかもしれないですね。
吉川ばんび そこのハードルがすごく高く感じる人もいて、負のループに入る人もたくさんいると思うんですけど、そこで「いやいや、貧困は怠慢でしょ? あなたがちゃんと働けば儲かるのに、どうしてやらないの?」って言われるんです。私は実家から逃げて一人暮らしをしていたんですけど、それでも精神は良くならなくて、眠れないし、朝、電車に乗ると吐き気がして、お腹が痛くなって、会社にたどり着けないという。
佐々木 精神がボロボロの状態で、働きたくても働けないから貧困に陥ってるんだよね。
「何でお前らはできないの? 怠慢じゃん」
吉川 でも貧困や機能不全家族で育った人の中にも、稀にすごい人がいます。貧困をむしろモチベーションにできて、メキメキと成功する人も中にはいるんですよ。
佐々木 孫正義さんとか、起業家の中にはそういう人もいますよね。
吉川 そうなんです。すると、「あの人だって貧困だったじゃん。何でお前らはできないの? 怠慢じゃん」と言われることもあります。それで「あぁ、自分はだめな人間だ」ってまた自己否定しちゃう人が多いんじゃないかって心配で。
佐々木 「貧困から成功した話」はみんな好きだし、クローズアップされやすいもんね。でもそれがゆえに、その成功体験がロールモデルになって世間に出回ってしまうと、辛いですよね。
吉川 それの生い立ちと成功譚がベストセラーの自己啓発本になると、もう地獄ですよね。
佐々木 でも、その方向性って僕は間違っていると思っています。もちろん彼らが貧困から出発して成功しているのは本当に素晴らしいことなんだけど、一方でそれが「ロールモデル」になってしまうと、そこにはまらない人は生きてけないし、結局「ジャングルで勝ち抜くことが正しい唯一の道」みたいな社会になっちゃう。そういう風潮はいい加減やめた方がいいんじゃないか、と去年くらいからずっと思っているんですよ。2000年頃から自己啓発本が流行り始めて、さらにその延長線上で最近オンラインサロンとかが流行っていて、一種の宗教みたいに怪しげなことになってるところもありますけど、「これってどこまで行っても出口はないんじゃないかな」と思っていて。
吉川 と言いますのは?